アナリティクスエンジニアは、「データエンジニアの技術力」と「データアナリストのビジネス理解」の境界領域を埋める、現代のデータ組織に不可欠な役割です。具体的な仕事は、生データをビジネスで使える形のデータモデルに変換すること、指標定義を統一し再利用可能なマートを構築すること、そしてデータ品質を担保するテストを書くことです。dbt・SQL・Gitを武器に、ビジネスロジックをコードで表現する職種、と理解するのが最もしっくりきます。
本記事では、アナリティクスエンジニアの定義、従来のロールとの違い、スキルセット、dbtとの関係、組織への導入パターン、キャリア展望までを解説します。E-01(データエンジニア)と読み比べることで、役割分担の全体像が見えてきます。
アナリティクスエンジニアとは
アナリティクスエンジニア(Analytics Engineer)は、2019年頃からdbt Labs(当時Fishtown Analytics)が提唱した比較的新しい職種です。従来は「データエンジニアが基盤を作り、アナリストが分析する」という二層構造でしたが、この間には「ビジネスロジックをコードでモデル化する」という空白領域がありました。この空白を埋めるのがアナリティクスエンジニアで、主な仕事はdbtを使ったデータモデリング、指標定義、データ品質テスト、ドキュメント整備です。
C-01(Modern Data Stack)の文脈で見ると、ELT時代の主役です。SaaSのELTツールがデータをDWHに運び、アナリティクスエンジニアがSQLとdbtで変換と品質保証を担当し、アナリストがBIで可視化する、という分業が現代のデータ組織の標準形になりつつあります。
従来のロールとの違い
アナリティクスエンジニアを理解する最短の方法は、従来の2職種(データアナリスト、データエンジニア)との違いを整理することです。三者の責務・ツール・アウトプットを比べると、アナリティクスエンジニアの独自性が浮かび上がります。
| 観点 | データアナリスト | アナリティクスエンジニア | データエンジニア |
|---|---|---|---|
| 主な責務 | ビジネス質問への回答 | データモデル構築・指標定義 | パイプライン・基盤構築 |
| 主要ツール | BIツール・SQL | dbt・SQL・Git | Python・Airflow・Terraform |
| アウトプット | レポート・ダッシュボード | 再利用可能なデータマート | 信頼できるパイプライン |
| 品質重視点 | 洞察の鋭さ | 整合性・再利用性 | 信頼性・鮮度 |
| 対象読者 | ビジネス部門 | アナリスト・他AE | 利用者全般 |
【データロールの重なり図】
[データアナリスト] ----> ビジネス質問への回答
\
\ 重なり: SQL、ビジネス理解
\
[アナリティクスエンジニア] ---> 再利用可能なデータマート
/
/ 重なり: コード化、テスト、Git
/
[データエンジニア] ----> パイプライン・基盤
※ アナリティクスエンジニアは両者の橋渡し役。単独で存在するのではなく、
従来2職種との重なりの中で価値を発揮する。
求められるスキルセット
アナリティクスエンジニアに求められるスキルは、「データ」「エンジニアリング」「ビジネス」の3つに分けて整理するとわかりやすいです。データ側ではSQLとデータモデリング、エンジニアリング側ではdbtとGit、ビジネス側では指標理解とドメイン知識が中核です。データエンジニアと比べるとインフラ構築スキルは不要な一方、ビジネスロジックの理解が深く求められます。
| 領域 | 必須 | 推奨 | あれば尚可 |
|---|---|---|---|
| データ | SQL(高度) | ディメンショナルモデリング | Data Vault, Activity Schema |
| エンジニアリング | dbt・Git | CI/CD・PRレビュー | Python・テスト自動化 |
| ビジネス | 指標定義の理解 | ステークホルダー対話 | ドメイン経験 |
| 周辺知識 | DWH(BQ/Snowflake) | BI ツール(Looker等) | データリネージ理解 |
dbtとアナリティクスエンジニアの関係
アナリティクスエンジニアという職種はdbtの普及と共に広まったため、両者は密接に結びついています。dbtは「SELECT文でデータモデルを定義し、テスト・ドキュメント・依存管理を一括で提供する」ツールで、SQLを書ける人がソフトウェアエンジニアリングのベストプラクティスを使えるようにしたことが革命的でした。B-01(dbt入門)で基礎を解説しています。
# dbtモデル定義例(schema.yml)
version: 2
models:
- name: fct_orders
description: "注文ファクトテーブル(1行=1注文)"
columns:
- name: order_id
tests: [unique, not_null]
- name: customer_id
tests: [not_null, relationships: {to: ref('dim_customers'), field: customer_id}]
このYAMLで、fct_ordersというファクトテーブルの定義、カラム説明、ユニーク性・NOT NULL制約、外部キー整合性のテストが一括で記述できます。アナリティクスエンジニアはこうしたモデル定義を日々積み重ね、ビジネスロジックの生きたドキュメントとして組織の資産に変えていきます。A-17(データプロダクト)の考え方と相性が良く、データモデルをプロダクトとして扱う文化と親和します。
組織への導入パターン
アナリティクスエンジニアを組織に導入する方法は、「新規採用」「社内転向」「兼任から始める」の3パターンがあります。中〜大規模組織では新規採用が一般的ですが、日本市場ではまだ専門職としての経験者が少ないため、「社内転向」が現実解となることが多いです。データアナリストにdbtと軽いソフトウェアエンジニアリングを教え込む、あるいはデータエンジニアにビジネスヒアリングのスキルを伸ばしてもらう、といった形です。
E-03(データチーム構築)で解説するように、10名以下の小規模組織では「兼任から始める」が最適です。まずはdbtを導入し、既存のデータエンジニアまたはアナリストが週1〜2日をモデリングに充てる。成果が見え始めたら専任化、という段階的アプローチが安全です。E-04(採用戦略)でも経験者採用の難しさと育成アプローチを扱っています。
キャリアパスと市場動向
アナリティクスエンジニアのキャリアは、「データプラットフォームエンジニア」「データプロダクトマネージャー」「データガバナンスリード」「チームリード」といった複数の方向性があります。dbtを深掘りして講師やコンサルタントになる道もあります。市場動向としては、海外では2020年以降急速に普及し、2025年時点では日本市場でも求人数が増加傾向にあります。現状は平均年収が700〜1,100万円程度で、データエンジニアとほぼ同水準ですが、今後専門性が高まるにつれて上振れする可能性が高いです。
まとめ
アナリティクスエンジニアは、データエンジニアとデータアナリストの間に存在する「ビジネスロジックのコード化」という空白を埋める職種です。dbt・SQL・Gitを中核に、再利用可能なデータマートと指標定義を積み上げることで、組織のデータ活用を劇的に加速させます。専任が難しい組織でも、兼任からのスモールスタートが可能で、導入ハードルは意外に低い役割です。
よくある質問
Q. アナリティクスエンジニアとデータエンジニアの違いは?
データエンジニアはインフラ・パイプライン構築が主務、アナリティクスエンジニアはビジネスロジックをSQLで実装しデータモデルを構築する役割です。前者が「データを運ぶ」仕事、後者が「データを意味のある形にする」仕事、と捉えるとわかりやすいです。
Q. アナリティクスエンジニアにプログラミングスキルは必要ですか?
SQLは必須、Pythonは推奨です。dbt・Git・CI/CDの知識も求められますが、インフラ構築スキルは不要です。むしろ「ビジネス要件をSQLで表現する力」と「モデルの再利用性を考える力」の方が、プログラミング言語の知識より重要です。
Q. 小規模チームでもアナリティクスエンジニアは必要ですか?
専任は不要ですが、データエンジニアまたはアナリストがこの役割を兼務する形が現実的です。dbt導入がその第一歩になります。モデリングの品質が上がることで、アナリストの分析工数が減り、組織全体の生産性が向上します。