<弊社参画前の課題>
当該企業では、日本支社の売上・在庫データがオンプレミスのレガシーDB(SQL Server)と、各部門が管理する無数のExcelファイルに散在していた。 最大の問題は、本国(HQ)へのレポート作成業務が限界を迎えていた点である。複雑怪奇なスパゲッティコード化したストアドプロシージャが夜間バッチで稼働していたが、データ量の増加に伴いタイムアウトやデッドロックが頻発。担当者は毎朝のエラー対応と手動でのExcel集計(いわゆる「Excelバケツリレー」)に忙殺されていた。 その結果、データ鮮度は常に2〜3日の遅れが生じ、在庫切れによる販売機会損失や、HQへの報告数値と現場の数値が合致しないといったガバナンス不全が経営課題となっていた。
<支援内容>
1. 現状分析・クイックウィン(パフォーマンスチューニング)
参画直後、喫緊の課題であった「夜間バッチの遅延」を解消するため、既存SQLの診断を実施。インデックスが効いていない結合処理や、不必要なカーソル処理などのボトルネックを特定し、クエリのリファクタリングを行った。これにより主要レポートの出力時間を4時間から40分へ短縮し、現場業務の負荷を即座に軽減した。
2. アーキテクチャ刷新(Modern Data Stackへの移行)
抜本的な解決のため、スケーラビリティに乏しいオンプレミス環境から、以下のクラウドネイティブなモダンデータスタックへの移行を設計・主導した。
- DWH: コンピュートとストレージを分離でき、高い同時実行性を有する Snowflake を採用。
- Ingestion: ERPおよび各国のPOSデータ連携に Fivetran を導入し、パイプラインの保守工数を極小化。
- Transformation: ブラックボックス化していたストアドプロシージャを廃止し、dbt (data build tool) を導入。変換ロジックをSQLベースで可視化し、Gitによるバージョン管理とCI/CD環境を構築した。
3. データモデリング・ガバナンス(Dimensional Modeling)
分析パフォーマンスとユーザビリティを最大化するため、スタースキーマ(Star Schema) に基づく多次元データモデルを設計。 特に課題であった「商品マスタ」や「顧客マスタ」における日本と本国(HQ)のコード体系の不整合に対し、MDM(Master Data Management)の観点から名寄せロジックを定義。グローバル共通の分析軸を確立した。また、dbt testによるデータ品質テストをパイプラインに組み込み、異常値を自動検知する品質保証プロセスを実装した。
4. 高度活用・自走化(Power BI導入と組織定着)
整備されたDWHをソースとして、Power BI によるダッシュボードを構築。DAXを用いた高度なメジャー定義を行い、在庫回転率やYoY(前年比)などの重要KPIを動的に可視化した。 加えて、社内のデータエンジニアおよびビジネスアナリストを対象に、SQL最適化技法やPower BIのモデリングに関するスキルトランスファーを実施。特定個人のスキルに依存せず、社内メンバーだけで運用・改善が可能なデータ組織への変革を支援した。
<実績・成果>
- 技術的成果
- 夜間バッチ処理時間を8時間から1時間未満へ約88%短縮。
- データパイプラインの障害発生率をほぼゼロにし、データ鮮度を「翌々日」から「当日(Near Real-time)」へ向上。
- ビジネス・組織的成果
- レポート作成にかかっていた月間約120時間の工数を全廃し、付加価値の高い分析業務へシフト。
- 意思決定の迅速化により、過剰在庫の早期検知が可能となり、四半期で数千万円規模の在庫コスト適正化を実現。
- 統一されたデータ定義により、HQと日本支社間のコミュニケーションコストが大幅に削減された。