~「見せる化」ではなく「言わせる化」。意思決定を動かすUI設計の極意~

はじめに:なぜ、御社のTableauやPower BIは「墓場」と化すのか

「DX推進の一環として、最新のBIツールを導入しました」 「経営指標を可視化したレポートを50本作成し、全役員にアカウントを配布しました」

プロジェクト完了から半年。アクセスログを確認した担当者は、血の気が引く思いをします。 経営層の最終ログイン日は「アカウント配布日」のまま。結局、毎週の役員会議では、誰かがBIの画面をスクリーンショットし、Excelで加工し直した数値がPowerPointに貼られている——。

高価なツールが「デジタルの墓場」と化してしまうこの現象。原因はツールの機能ではありません。作り手の思考が**「データがあるから、とりあえず見せよう(Supply Driven)」**という罠に陥っていることにあります。

本稿では、使われないダッシュボードに共通する構造的欠陥と、そこから脱却するための設計思想について解説します。

1. 構造的欠陥①:「So What?(だから何?)」が欠落している

失敗するダッシュボードの典型例は、単なる「健康診断シート」になってしまっているものです。 売上、利益、客数……。無数の数字が羅列された画面を見て、経営者はこう思います。

「売上が落ちているのは見ればわかる。私が知りたいのは『なぜ落ちたのか?』『どこ(どの店舗、どの商品)に手を打てばいいのか?』だ」

アクションに繋がる示唆(インサイト)がない画面は、忙しい経営者にとってノイズでしかありません。 「とりあえずフィルタ機能をたくさん付けました。あとは自由に絞り込んで見てください」というのは、設計放棄と同じです。ユーザーに分析という作業を押し付けてはいけません。

2. 構造的欠陥②:KPIの定義における「合意形成」不足

もう一つの死因は、データに対する「不信感」です。

「このダッシュボードの『営業利益』は、本社管理費を含んでいるのか?」 「経理が出してくる全社システムの数字と合わないぞ」

ダッシュボード構築の前に、指標の定義(ロジック)について関係各所と握っていないため、会議の場が「数字の定義確認」や「整合性の粗探し」で終わってしまうパターンです。 一度でも「この画面の数字は怪しい」と思われると、信頼を取り戻すのは至難の業です。結果、「信用できないから、いつものExcelで見せてくれ」という先祖返りが起きます。

3. 「Excel」を敵視するな。BIとの正しい使い分け

ここで重要なのが、多くのDX担当者が悩み、対立しがちな「Excel文化」への向き合い方です。 「Excelは属人化の温床だから撲滅すべき」という極論は、現場の反発を招くだけでなく、実務的にも正しくありません。ExcelにはExcelの良さ(柔軟性・試行錯誤のしやすさ)があるからです。

我々が提唱するゴールは、**「定型モニタリングはBI、非定型分析はExcel」**という共存です。

  • BIの役割(定型モニタリング): **「Single Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)」**として機能すること。定義がロックされており、いつ誰が見ても同じ数字(正解)が表示される場所です。
  • Excelの役割(非定型分析): BIで異常を検知した後、「なぜそうなったか?」を深掘りしたり、シミュレーションを行ったりする場所です。

最も避けるべきは、**「経営層やPMがExcelでKPI表を魔改造すること」**です。手元で加工した瞬間に、その数字は「個人の解釈」が混ざったものになり、組織としての定義の信頼性が損なわれ、DSやDE、開発エンジニア、情シスや経理までも巻き込んで数値の整合性確認に奔走させることになります。

「見るのはBI(加工不可)、考えるのはExcel(加工可)」という使い分けを明文化することが、平和的解決への鍵です。
(※加工しない場合はExcelをダッシュボードとして使ってももちろんOK。むしろよくあるケースです。)

4. 解決策:データから作るな。「意思決定」から逆算せよ

では、どうすれば「使われるダッシュボード」になるのでしょうか。 いきなりツールを開いてはいけません。まずはホワイトボードに向かい、以下の要素を逆算して定義します。

  1. Who: 誰が(例:マーケティング部長が)
  2. When: いつ(例:月曜朝の予算会議の前に)
  3. Action: 何を決めるために(例:今週のWeb広告費の媒体配分を決めるために)
  4. Data: 何を見る必要があるか(例:先週の媒体別CPAと獲得件数の推移を)

このように「意思決定の瞬間」から逆算すれば、必要なグラフは自ずと決まります。そこには不要なノイズが入る余地はありません。

成功するダッシュボードは、**「異常検知(アラート)」「ドリルダウン(深掘り)」**のストーリーが設計されています。 「全体の売上が目標未達(アラート)」→「要因は関西エリアだ(ドリルダウン)」→「特にA店舗の客足が鈍い(特定)」 このように、思考の流れに沿ってクリックしていけるUIこそが、意思決定を加速させます。

まとめ:ダッシュボードは「製品(プロダクト)」である

ダッシュボード構築は、単なるレポート作成業務ではありません。社内の意思決定を支援するための「アプリケーション開発(プロダクトマネジメント)」です。 ユーザー(経営層)の課題を解決しないプロダクトが淘汰されるのは、市場原理と同じです。

「作ったけれど使われない」状況を打破するために。 ツールの操作研修をする前に、まずは貴社の「KPI設計」と「意思決定プロセス」の見直しから始めませんか?

我々は、単にグラフを作るだけでなく、「どの数字を見れば経営判断ができるか」という上流設計からご支援いたします。