「Palantirはすごいらしい」という話は届くのに、資料を読んでも講演を聞いても、自社に必要かどうかまでは判断できない。オントロジー、デジタルツイン、意味レイヤーという言葉が並ぶものの、いま使っているDWHやBIと何が違うのかが最後まではっきりしない。経営から「うちも検討しろ」と言われて調べ始めた方から、この手詰まりの相談をよくいただきます。

抽象的に聞こえるのは、説明の多くが「何ができるか」から入るためです。仕組みの側から順に見ると、輪郭ははっきりします。ここでは Palantir 公式ドキュメントの定義を出発点に、オントロジーが何を指し、既存のデータ基盤と役割がどう違うのかを整理します。

オントロジーは「組織のデジタルツイン」と定義されている

まず公式の定義を確認します。Palantir のドキュメントは、オントロジーを次のように説明しています(Ontology / Core concepts)。

An Ontology is a categorization of the world. In Foundry, the Ontology is the digital twin of an organization, integrating the organization’s digital assets (datasets and models) into a coherent whole.

要点は「統合する対象がデータセットとモデルである」ことと、「それを一貫した全体にまとめる」ことの2つです。新しくデータを貯める場所ではなく、すでにある資産の上に載せる層だと読めます。

ここが最初のつまずきどころで、オントロジーはDWHの置き換えではありません。DWHに集めたデータを、業務の言葉で扱えるように定義し直す層です。

データセットとオントロジーは、何がどう対応するのか

公式ドキュメントは、テーブルの世界とオントロジーの世界の対応を明示しています(Ontology / Core concepts)。この対応表を見ると、抽象度が一気に下がります。

テーブルの世界オントロジーの世界設備保全での例
データセットオブジェクト型(Object Type)「設備」という型
行(Row)オブジェクト(Object)設備No.A-014の圧縮機
列(Column)プロパティ(Property)設置年月、稼働状態、担当拠点
値(Field)プロパティ値2019年4月、稼働中、名古屋
結合(Join)リンク型(Link Type)設備と点検記録のつながり

普段テーブルを扱っている方なら、これだけで見当がつくはずです。やっていること自体は突飛ではなく、テーブルとその結合に、業務で使う名前と意味を与える作業です。

オントロジーを構成する4つの要素

公式の定義を、そのまま並べます(Ontology / Core conceptsAction types / Overview)。

要素公式の定義(原文)平たく言うと
オブジェクト型the schema definition of a real-world entity or event現実の「もの」や「できごと」の型。設備、作業員、点検、出荷など
プロパティthe schema definition of a characteristic of a real-world entity or eventその型が持つ属性。稼働状態、設置年月など
リンク型the schema definition of a relationship between two object types型と型の関係。設備と点検記録、設備と部品在庫
アクション型the definition of a set of changes or edits to objects, property values, and links that a user can take at once利用者が一度に実行できる変更のまとまり。点検指示を出す、部品を引き当てる
ファンクションa piece of code-based logic that takes in input parameters and returns an output業務ロジックをコードで書いた部品。アクションやアプリから呼ばれる

前の3つは、データモデリングの経験がある方には馴染みのある概念です。差が出るのは4つ目のアクション型で、ここが「読むための基盤」と「業務を動かす基盤」を分ける部分になります。

DWH・BIと役割がどう違うのか

DWHとBIがあれば、集計も可視化も足ります。ディメンショナルモデリングは分析のために磨かれてきた成熟した技術で、置き換える理由はありません。違いが出るのは、画面で判断したあとの動きです。

Palantir のアクション型は、オブジェクトやプロパティ、リンクへの変更を一度の操作として定義します。変更の結果は書き戻し用のデータセットに取り込まれ、通知などの副作用(side effect)も併せて定義できます(Action types / Overview)。

AWSのブログは、この書き戻しをより踏み込んで説明しています。「すべての決定、およびその決定が下されたコンテキストは、オントロジーに書き戻され、該当する場合は元のデータソースに書き戻されます」とあり、その結果としてモデルの再学習が可能になると述べています(AWS Japan APN ブログ, 2022-01-31)。

観点DWH+BIオントロジーを持つ基盤
主な用途集計と可視化判断と、そのあとの実行
扱う向き読み取りが中心読み取りと書き戻し
業務ルールBI側やアプリ側に散るアクションとファンクションに寄せられる
操作の担い手分析者現場の業務担当者
向いている問い何が起きたか次に何をするか、誰がやるか

この差は優劣ではありません。分析の質を上げたいならDWHとBIの改善が先です。判断から実行までの手戻りが大きい業務を抱えているなら、オントロジー型の設計が効きます。

設備保全で考える:どこに効くのか

抽象論だと判断できないので、具体で置きます。全国12拠点に生産設備を持つメーカーで、保全の担当者が3名という想定です。

いまは異常の兆候をBIのダッシュボードで見つけたあと、基幹システムに入り直して設備の台帳を確認し、部品在庫を別の画面で調べ、拠点の担当者にメールで点検を依頼しています。依頼した記録は個人のメールに残るだけで、次に同じ設備を見る人には引き継がれません。

オントロジーの言葉に置き換えると、次のようになります。

要素設備保全での中身
オブジェクト型設備、点検記録、部品、拠点、担当者
リンク型設備と点検記録、設備と部品、拠点と担当者
アクション型点検を指示する(担当者を割り当て、期限を入れ、設備の状態を「要点検」に変える)
ファンクション稼働時間と前回点検日から、点検の優先度を算出する
副作用指示した瞬間に、拠点の担当者へ通知を送る

効くのは、画面の切り替えと転記が消えることではありません。誰がいつ何を判断したかが、設備に紐づいて残ることです。次に同じ設備を扱う人が、経緯を引き継げます。

工数で見ます。保全担当の月給を35万円とすると、会社が負担する総コストは社会保険の会社負担・賞与・退職金・福利厚生・設備費・間接費を含めておよそ3倍の月105万円です。実働160時間で割ると時給はおよそ6,600円になります。

作業現状仕組み化した後
台帳と在庫の照会・転記1件30分1件5分25分
月あたりの件数40件40件
月あたりの時間20.0時間3.3時間16.7時間
金額換算(時給6,600円)約13.2万円約2.2万円約11.0万円/月

年間でおよそ132万円です。この数字だけで基盤への投資は正当化できません。判断の履歴が残ることで再発の分析ができるようになる効果と併せて見るべきで、工数削減は入口の指標に留めるのが誠実です。

自社に必要かを見極める

検討に入る前に、次の問いに答えられるかを確かめてください。答えが揃わないうちは、基盤の話に進んでも空回りします。

問い答えられない場合にまず必要なこと
判断から実行までで、いちばん手戻りが大きい業務はどれか現場の業務フローの棚卸し
その業務で「気づいたあと」に触るシステムはいくつあるか対象システムの洗い出し
同じ言葉が部門で違う意味を持っていないか用語定義のすり合わせ
書き戻す先の基幹システムは、外部からの更新を許すか基幹側の制約確認
1年後、誰がこの仕組みを維持するか運用体制と引き継ぎの設計

特に4つ目でつまずく企業が多くあります。書き戻しを前提にした設計は、基幹システムが更新APIを持っているか、持っていない場合にどう回避するかで、実現できる範囲が大きく変わります。

また、Palantir を導入することと、オントロジー型の設計を採ることは別の話です。既存のDWHの上に、業務の言葉で定義した層とアクションを行うアプリ層を自前で組む選択肢もあります。規模と体制次第で、そちらが現実的な場合があります。

よくある質問(FAQ)

Q. オントロジーはDWHを置き換えるものですか。

置き換えるものではありません。公式ドキュメントはオントロジーを、統合済みのデータセットとモデルを一貫した全体にまとめる層と定義しています。DWHに集めたデータの上に載る層だと理解するのが実態に近い読み方です。

Q. データカタログやセマンティックレイヤーとは何が違いますか。

指標や項目の定義を揃える点は共通しています。違いはアクション型の有無です。公式の定義では、アクション型はオブジェクトやプロパティ、リンクへの変更をひとまとまりの操作として定義するもので、変更は書き戻し用データセットに取り込まれます。読み取り側だけを扱う仕組みとは、扱える範囲が異なります。

Q. Palantir を導入しないと、この考え方は使えませんか。

使えます。オブジェクトとリンクで業務を表し、変更をアクションとして定義するという設計の考え方自体は、既存のDWHとアプリケーション層の組み合わせでも実装できます。判断すべきは、その内製と運用にかかる工数を自社で持てるかどうかです。

Q. どのくらいの規模から検討する価値がありますか。

規模より、判断から実行までに触るシステムの数と、その手戻りの大きさで見るほうが実態に合います。拠点や部門をまたいで同じ判断が繰り返されていて、そのたびに複数システムを行き来しているなら、規模が中堅でも効果が出ます。

出典

本記事の定義部分は上記一次情報にもとづきます。判断や見解の部分は当社によるものです。

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