全社に生成AIを配って半年、部門ごとの差がはっきりしてきました。営業は議事録の要約で毎日使っているのに、経理は「月次の仕訳で一度間違えられてから誰も触らない」と言います。情シスは全社の相談対応に追われ、自分たちの業務では一度も使っていません。部門長会議で「経理と情シスは遅れている」と言われ、両部門の部長があなたを見ます。

部門で差が出るのは、部門ごとに「AIに任せる工程」と「人が持つ工程」の線の引き方が違うからです。営業と同じ使い方を経理に持ち込めば、うまくいかないのは当然です。

部門ごとの早見表

部門最初に任せやすい工程人が持つ工程入れてはいけない情報
経理月次報告の説明文の下書き、経費申請の規程チェック仕訳の確定、外に出す数字の最終確認取引先ごとの金額と未公開の決算数値(会社契約の環境以外)
情シス問い合わせの一次回答の下書き、チケットの仕分け権限の変更、障害の判断パスワードと鍵。構成情報やログは会社契約の環境に限る
法務契約書の論点の抜き出し、条文の比較リスクの判断、相手方への回答相手方から秘密として受け取った契約書(会社契約の環境以外)
人事求人票の下書き、研修資料のたたき台採用の合否、評価評価、給与、健康状態
営業商談前の会社調査、議事録の要約、提案書のたたき台価格と条件の決定、顧客への最終回答未発表の価格、契約前の取引先名

部門を問わず、AIに任せるのは下書き・整理・仕分けまでです。確定・判断・社外への回答は人が持ちます。

経理:正確さが要る業務ほど、任せる工程を細かく切る

経理は一度の誤答で信用をなくしやすい部門です。仕訳のように正確さが要る業務をまるごと任せると、まず失敗します。業務を工程に分け、間違えても人が気づける工程だけを任せます。

業務AIに任せる工程人が持つ工程
月次の経営報告表計算の売上・費用の数字から、前月との差を説明する文の下書き数字そのものの集計と、説明の確認
経費申請のチェック経費規程を読ませ、規程の上限を超えている申請の候補を挙げる候補を見て、差し戻すかを決める
監査法人からの質問質問の整理と、過去の似た回答との比較回答の作成と、経理の管理職の確認
月次の仕訳勘定科目の候補を、過去の似た取引と並べて示す(科目の一覧が最新で、AIから読める場合だけ)仕訳の確定

月次の経営報告の説明文は、効果が見えやすい入口です。月8時間かけていた下書きが2時間になれば、月6時間が浮きます。月給35万円の担当者なら、会社の負担は給与の約3倍の年1,260万円、1時間あたり約6,600円で、月約4万円、年約48万円分の時間です。金額は説明のための例です。

仕訳にAIを使うなら、勘定科目と取引先の一覧が最新で、AIから読める状態にしておくことが先です。一覧が古いままだと、AIはもっともらしく古い科目を返します。経理でのAI活用は、データの整理と別の案件として並行させます。

情シス:自部門の問い合わせ対応から始める

情シスは全社のAI活用を支える側に回り、自分たちの業務では使っていないことが多い部門です。いちばん効くのは、自分たちに来る問い合わせへの対応です。

業務AIに任せる工程人が持つ工程
問い合わせの一次対応社内の手順書を読ませ、回答案と参照した手順書を出させる回答案を確認して送る。解決しない場合の引き上げ
チケットの仕分け問い合わせの文面から、分類と担当の候補をつける分類の見直し
手順書の更新古い手順書と変更の記録を読ませ、更新案を作る更新案の確認と公開
監査への対応監査の質問を整理し、社内の記録と照らした回答案を作る回答の確定

問い合わせの一次対応は、件数で効果を見ます。月200件の問い合わせに1件10分かけていたのが、回答案の確認だけで4分になれば、月20時間が浮きます。

セキュリティのログの異常検知のように、専用の監視製品がすでに担っている業務は、汎用のAIに置き換えません。汎用のAIは、経営向けの説明資料や社内向けの教材づくりに回します。

情シスのAI活用は、全社の推進にも効きます。自分たちで使ってみて初めて、どこで権限が足りないか、どんな質問が来るかが分かるからです。全社の相談の受け手を3つの層に分けるやり方は、生成AIが社内で使われない理由と立て直し方に書いています。

法務・人事・営業は、外に出る前に人が見る文書から始める

部門AIに任せる工程人が持つ工程最初の指示文
法務契約書の論点の抜き出し、相手の修正案とひな形の比較リスクの判断、相手方への回答「この契約書と自社のひな形を比べ、違う条項を一覧にして」
人事求人票と研修資料の下書き採用の合否、評価「この職務の内容から、求人票の業務欄を300字で書いて」
営業商談前の会社調査、議事録の要約価格と条件の決定議事録要約のひな形

法務は、契約書の論点の抜き出しと、相手方の修正案と自社のひな形の比較から始めると、確認の時間が見えて減ります。秘密として受け取った契約書の扱いを先に決めておくことが欠かせません。詳しくは法務部門の生成AI活用に書いています。

人事は、求人票や研修資料の下書きのように、外に出る前に人が必ず見る文書から始めます。評価や合否のような人に関わる判断には使いません。詳しくは人事部門の生成AI活用にあります。

営業は、商談前の会社調査と議事録の要約で使われやすい一方、商談の情報にAIからアクセスできないと議事録にしか使われません。立て直し方は生成AIが社内で使われない理由と立て直し方を参照してください。

部門の手引きは、全社版に5つの項目を足す

部門に配る手引きは、全社共通のものに部門の項目を足す形にします。

項目経理の記入例
使ってよい環境会社契約のサービスだけ。取引先ごとの金額を入れるのは、入力内容が学習に使われない設定の環境に限る
任せる工程と人が持つ工程上の表をそのまま載せる
業務ごとの指示文月次報告の説明文、経費規程のチェック、監査の質問の整理で、各5つ
失敗の例「合計金額を計算させてずれた」「古い科目を返された」など10件
確認の順番AIの下書き → 経理の担当が確認 → 管理職が承認

手引きの書き方そのものは、研修とプロンプト手引きの設計を組み直す方法で1業務1ページの書式を紹介しています。

よくある質問(FAQ)

経理のように正確さが要る部門でも、生成AIは使えますか?

使えます。仕訳や集計のように正確さが要る工程は人やシステムが持ち、AIには説明文の下書きや、規程に照らしたチェックの候補出しを任せます。業務をまるごと任せるのではなく、間違えても人が気づける工程を選ぶのがこつです。

部門ごとに別々のAIサービスを契約すべきですか?

最初は全社で1つの会社契約にそろえます。部門ごとに別の契約をすると、管理と社内ルールが部門の数だけ増えます。特定の部門でどうしても足りない機能が出てきたときに、その部門だけ追加を検討します。

情シスは、自分たちの業務でAIを使う余裕がありません。

だからこそ、自分たちに来る問い合わせの一次対応から始めます。回答案の下書きを任せるだけでも、相談への返事が早くなり、全社の推進の詰まりも減ります。

部門の推進役は誰にすればよいですか?

その部門の業務をよく知っていて、周りから自然に相談される中堅を選びます。AIに詳しい若手より、業務を知っている人のほうが、任せる工程と人が持つ工程の線を正しく引けます。

人事評価や採用の合否にAIを使ってもよいですか?

判断そのものには使いません。応募書類の要約や、面接の質問案の下書きまでにとどめます。人に関わる判断をAIに任せると、理由を説明できなくなり、偏りがあっても気づけません。

部門によって使われ方に差が出ているなら、遅れている部門で任せる工程の線を引き直すところから始められます。その部門の業務を1つ持ってきていただければ、初回相談(30分・無料)で一緒に切り分けます。