<弊社参画前の課題>
暗号資産取引所のリアルタイム注文簿(Order Book)と約定データを活用したアルゴトレーディング基盤を構築しようとしたが、既存のデータ取得基盤が実用に耐えない状態だった。
- Pythonによるシングルスレッドの取得スクリプトをVM上で運用していたが、 CPUブロッキングによりWebSocketのメッセージ処理が追いつかず、高ボラティリティ時に数秒〜数十秒の遅延や接続切断が頻発していた。
- バックテスト用のデータも、スナップショットの欠損やタイムスタンプの不整合が多く、実運用との乖離(Look-ahead Bias等)により再現性が著しく低かった。
- 複数取引所(Binance, Bybit, OKXなど)のAPI仕様差異を吸収する正規化レイヤーが存在せず、アドホックな対応を繰り返していたため、実行価格のスリッページが大きく収益機会を逸していた。
- チーム内に低レイテンシ処理や分散システムの専門知見がなく、アーキテクチャの抜本的な見直しができないままPoCが3ヶ月以上停滞していた。
<支援内容>
- Binance, Bybit, OKX, Coinbase Proなど主要10取引所のWebSocketをマルチスレッドで常時接続し、L2差分更新(Diff/Delta)とTradeイベントをマイクロ秒精度でキャプチャする低レイテンシデータパイプラインをRust + Tokioで構築。
- 各取引所のサーバータイムとローカルNTPを同期監視し、受信パケットに正確な受信タイムスタンプを付与して後段で時系列順(Monotonic)に整列させるアライメントロジックを実装。
- Kafkaをメッセージングバックボーンに採用し、PartitionをSymbol(通貨ペア)単位で最適化。Producer/Consumerの設定をチューニングし、スループットとレイテンシのバランスを最適化したインフラを構築。
- 注文簿管理にはLocal Order Bookの再構築ロジックを実装し、定期的なフルスナップショットと差分データを組み合わせ、5分ごとにRocksDBへ永続化。任意時点の板情報を正確に再現できるヒストリカルストレージを設計。
- バックテスト環境向けにClickHouseへデータをパーティショニング転送するパイプラインをAirflowで整備し、TBクラスのデータを高速にクエリ可能な分析基盤を提供。
- (オプション)Deribitのオプション価格とGreeksストリームを取り込み、同一パイプラインでIV(インプライド・ボラティリティ)サーフェスをリアルタイム配信する機能拡張を主導。
- 運用監視として、主要メトリクス(レイテンシ分布、シーケンス抜け)をPrometheus/Grafanaで可視化し、異常時には即座にアラートを発報する体制を確立。
- Confluenceへの設計ドキュメント集約と、Rust/PythonのクライアントSDK(サンプルコード)の提供により、開発チームへの技術移転を実施。
<実績・成果>
- パイプラインの刷新により、取引所からのデータ受信から内部ストラテジー配信までの処理レイテンシ(P99)を数百msから5ms以下に短縮。アルゴリズム実行時のスリッページを約65%低減し、収益性を大幅に改善。
- ヒストリカルデータの品質が向上し、バックテストとライブ運用の乖離が極小化。戦略の有効性検証サイクルが従来の1/3に短縮された。
- WebSocket切断時の自動再接続や、シーケンス番号監視による欠損データの自動補完ロジックにより、24時間365日の安定稼働を実現。障害復旧も完全自動化された。
- チームメンバーが新規取引所の追加や機能拡張を自律的に行えるようになり、内製で高度なデータ基盤を維持・発展させる体制が整った。