「データを活用して事業を伸ばしてほしい」。経営からそう託されて旗振り役になりました。専任は実質あなたひとりです。各部門に「このデータを出してほしい」と頼んでも通常業務の後回しにされ、催促ばかりが仕事になっていきます。経営からは毎月進捗を聞かれ、半年たつと「結局、何が変わったのか」と問われました。答えに詰まったまま、年度計画には今年も「データ活用の推進」と書いてあります。

ここで頑張る方向を間違えると消耗します。データ活用は他部門のデータと協力なしには進みません。権限のない推進担当の依頼は、現場の忙しさに簡単に埋もれます。だから、自分がもっと頑張るより先に、動く人を増やすことに力を使います。

12か月の全体像を先に見る

最初に、1年でどこまで行くかを決めておきます。全部を同時に始めると、どれも中途半端で終わります。1つの成果を出してから広げる順番にします。

時期ゴールやること終わったと言える目安
1〜3か月(立ち上げ)最初の成果を1つ出す味方を2人つくる。手作業の集計を1つ自動化する現場が毎週その表を見ている
4〜9か月(横に広げる)2つ目、3つ目の部署へ広げる次の部署の困りごとを一緒に1つ解く。もめる定義を3つ決める自動化した業務が3つになり、会議で数字の前提がもめない
10〜12か月(自分たちで回す)外部の支援なしで回る状態にする手順書と定義の記録を社内に残す。外部の稼働を減らす社内のメンバーだけで表の修正ができる

期間は目安です。組織の規模やデータの状態で前後します。それでも「最初の3か月で1つ成果を出す」ところは動かしません。データの整理と社内の合意には、見積もりの1.5倍の時間を見込んでおきます。

最初の味方は「数字が読めずにいちばん困っている役員」

経営の後ろ盾を、つい社長や情報システム担当の役員に頼みがちです。しかし本気で動いてくれるのは、いまのデータの問題で自分の数字がいちばん読めずに困っている役員です。困っている人ほど、自分ごととして力を貸してくれます。

見当がつかなければ、次の手順で1人に絞ります。

– 直近2〜3回の経営会議の議事録か、役員向けの報告資料を見返す

– 「数字が読めない」「着地が見えない」「報告が遅い」という不満が出ている役員を探す

– それでも分からなければ、経営会議に出ている上司に「最近どの数字で経営がもめていますか」と一問だけ聞く

典型的には、受注予測が当たらず月末の着地が読めない営業担当の役員です。月次決算の確定が遅く部門別の採算がすぐ見えない財務の役員や、在庫と稼働率のデータがそろわず判断できない生産の役員も候補になります。

狙う役員が決まったら、自分の頼みごととしてではなく、相手の痛みの解決として持っていきます。

伝える順番言うこと例
1その役員が困っている数字を、最初の改善対象にする「月末の着地が読めない問題から手をつけたいと考えています」
23か月で目に見える形にすると約束する「3か月で、毎週月曜に案件の進み具合と月末の着地見込みが見える表にします」
3頼むことを最小にする「お願いしたいのは、月1回30分の会議への同席だけです」

同席してもらえたら、そこで頼むことは3つに絞ります。部門長が集まる会議で「これは全社の方針だ」と一言添えてもらうこと。月1回の推進会議にいてもらうこと。予算の一次承認者になってもらうことです。推進担当が百回言うより、役員の一言のほうが現場の優先順位を変えます。

現場の味方は「依頼がいちばん多い部署」から

全部署に均等に声をかけても、薄く広がって誰も動きません。味方は1部署から作ります。直近3か月で「この数字を出して」と最も多く頼んできた部署を思い出してください。依頼が多い部署は、それだけデータで困っていて、協力する理由があります。

その部署と、最初の小さな成果を1つ作ります。選ぶ業務は、次の3つをすべて満たすものにします。

– 毎週か毎月、必ず発生する

– いまは手作業で、1回に1時間以上かかっている

– その結果を定期的に見る人がいる

役員に約束した表がこれにあたります。営業部が毎週やっている案件の進み具合の手集計を、月末の着地見込みまで自動で出る表に置き換えます。1人が週2.5時間、2名でやっているなら、2.5時間×2名×月4週で月20時間が浮きます。年収500万円の担当者なら会社の負担は給与の約3倍の年1,500万円、年1,900時間で割ると1時間あたり約7,900円です。月20時間は月約16万円、年に約190万円分の時間になります。数字の鮮度も「3日遅れ」から「当日」に変わります。

できあがった成果は、必ず現場の人に、現場の言葉で社内に紹介してもらいます。隣の部署は、推進部門の宣伝より同僚の実体験を信じます。最初の味方が、次の味方を連れてきます。

作業は自分でやらず、最初の3か月は外部の専門家に頼む

非エンジニアの推進担当は、ここで固まりがちです。自動化やダッシュボードと言われても、自分では作れないからです。しかし作る必要はありません。推進担当の仕事は、対象の業務を選び、現場の手順を言葉にし、できあがったものを現場に使ってもらうことです。

まず、いまの手集計を「誰が・どのファイルを・何分かけて・どう作っているか」の粒度で書き出します。この手順書が、外部の専門家に渡す設計図になります。

いきなり正社員のデータエンジニアを採用しようとすると、つまずきます。経験者は年収600〜900万円ほどで、採用までに3〜6か月かかることも珍しくありません。しかも1人目は、指示や育成ができる人が社内にいないまま放り込まれ、立ち上げがかえって遅れます。最初の3か月だけ、外部の専門家に週2〜3日入ってもらい、再現できる型を作るほうが早く進みます。

声をかけるときは、次の5項目を1枚にして渡します。見積もりも作業もぶれなくなります。

項目記入例
対象の業務営業部の案件進捗の集計
いまの手順上で書き出した手順書
使っているツールスプレッドシートとLooker Studio
期限6週間で初版
できたと判断する基準現場が毎週その表を見にくる状態になっている

費用は「日単価×稼働日数」で比べます。経験者の日単価はおおむね5〜10万円です。日単価7万円で週2日、月8日なら月56万円、3か月で168万円です。業務委託は社内で管理する手間を足して委託費の約1.2倍で見るので、約200万円になります。最初の3か月の費用約200万円は、1業務目で浮く時間(年約190万円分)でほぼ回収できます。ただし浮いた時間は、別の仕事に回して初めて価値になります。経営に見せるときは、浮いた時間を何に回したかも一緒に示します。

最初の90日は、おおむね次のように進みます。

期間やること
1〜2週役員と現場の味方を固め、最初に取り組む業務を1つに決める
3〜6週その業務のデータを集め、最初の表を作ってもらう
7〜10週現場に毎週使ってもらい、つまずくところを直す
11〜13週浮いた時間を測り、推進会議で次に取り組む業務を決める

毎回もめる定義は3つだけ、決める人を決める

推進が止まる地味な原因が、言葉の定義の食い違いです。同じ「売上」でも、受注した月で数える部署と、納品した月で数える部署があります。会議が「その数字の前提は」で止まり、同じ話が何度も蒸し返されます。

全社の用語を全部そろえる必要はありません。下のよくある候補から、自社で毎回もめる3つを選び、それぞれ決める人を1人立てます。

もめやすい定義食い違いの例
売上を数える時点受注した月か、納品・検収した月か
解約解約を申し出た日か、契約が満了した日か
顧客の単位契約ごとか、事業所やグループごとか
アクティブな利用者ログインした人か、課金した人か

権限のない推進担当は、「あなたが決める人です」と勝手に指名できません。そこで月1回の推進会議を使います。役員が同席している場で「この用語を最終的に決めるのは、どの部署の誰か」を5分で決め、議事録に残します。これで決める人に正当性がつきます。記録は共有ドライブのスプレッドシート1枚で足ります。「用語・定義・決めた人・決めた日」の4列です。指標の定義を細かく詰めるやり方はKPI設計の進め方の「受注率が24%と18%に割れるのはなぜか」で扱っています。

月1回の推進会議を「報告会」から「決める場」へ

各部門の進み具合を読み上げて終わる会議では、何も前に進みません。30分なら、次の配分にします。

時間使い方
最初の10分前回からの成果を、数字で1つだけ共有する
次の15分いま詰まっている論点を出し、その場で2〜3件を決める
最後の5分次にやること、担当、期限を確かめる

その場で決まらない論点は、「誰が・いつまでに決めるか」だけを決めて次に送ります。役員が欠席した回は、決まったことを3行にまとめてメールで送り、追認をもらいます。

やってはいけない3つ

– 自分がボトルネックになる。 すべての依頼を自分経由にすると、あなたが休んだ瞬間に全部止まります。窓口は作っても、実務は味方と外部の手に渡します

– 全部署で一斉に始める。 薄く広がって、どこも成果が出ません。1部署で成功を作り、現場の口コミで横に広げます

– 体制図づくりに時間をかける。 きれいな組織図を描いても、3か月後に「図だけ立派で、動いた業務はゼロ」になりがちです。図は業務を1つ動かしてから、後追いで描きます

半年後、経営に何を見せるか

冒頭の「結局、何が変わったのか」には、半年後に1枚で答えられるよう準備しておきます。盛る必要はありません。次の3つを並べれば、経営は続けるかどうかを判断できます。

見せるもの例
自動化・改善した業務の数2業務(営業の案件集計と着地見込み、月次の部門別採算)。3つ目の在庫の週次報告は着手中
浮いた時間の合計と、その使い道月40時間。会社の負担で換算すると月約32万円。浮いた時間で営業企画が失注理由の分析を始めた
次の3か月で取り組むこと着地見込みの当たり外れを毎週振り返り、予測の精度を上げる。理由は営業担当の役員の要望

金額と時間は説明のための例です。うまく進まないときにどこで止まっているかは、データ活用が失敗する理由の地図で確かめられます。

よくある質問(FAQ)

データ活用は何から始めればよいですか?

ツール選びや基盤づくりから始めません。数字が読めずにいちばん困っている役員と、依頼の多い部署を見つけ、手作業の集計を1つ自動化するところから始めます。最初の3か月で1つ成果を出せば、次の協力と予算が引き出せます。

推進担当は何人くらい必要ですか?

専任が1人いれば立ち上げられます。ただし1人で全部をやろうとすると止まります。人数よりも、後ろ盾になる役員、現場の味方、手を動かす外部の専門家がそろっているかで進み方が決まります。

外部に頼むと、社内にノウハウが残らないのでは?

残す前提で進めれば残ります。立ち上げ期に外部と型を作り、10〜12か月目で社内に引き継ぐ計画を最初から持ちます。手順書と定義の記録を社内に置いておけば、担当が変わっても回ります。

成果が出るまで、どのくらいかかりますか?

範囲を1業務に絞れば、90日ほどで最初の成果を示せます。全社で一斉に進めるより、小さな成功を作って横に広げるほうが根づきます。

最初の相談に、何を持っていけばよいですか?

3つあれば足ります。数字が読めずに困っている役員の見当、最初に自動化したい手作業の業務、その業務のいまの手順のメモです。これがあれば、具体的な次の一手まで話が進みます。

最初に誰を味方にし、どの手作業から自動化するか。その2つを決めるところまでなら、30分で一緒に整理できます。初回相談(30分・無料)へ、役員の見当と手作業のメモを持ってお越しください。