経営から「全社のKPIを設定して展開してくれ」と言われ、他社の事例やフレームを参考に、それらしい指標をいくつも並べました。ところが現場の反応は、「で、私たちは具体的に何をすればいいんですか?」。半年たっても、数字は毎月きれいに集まるのに、現場の動きは何も変わりません。経営会議では「このKPI、追う意味あるの?」と詰められ、あなたは指標づくりと集計作業に追われるばかりです。

KPI設計を任された方から、わたしたちはこうした声を本当によく聞きます。しかし、KPIが効かないのは、指標を選ぶセンスの問題ではありません。「目標から現場の行動まで」がつながっていないだけです。裏を返せば、つなげる設計の型さえ押さえれば、同じ会社のまま現場は動き始めます。まずは、なぜ「それっぽいKPI」が空回りするのかからほぐしていきます。

なぜ「それっぽいKPI」は現場を動かさないのか

動かないKPIには、決まった3つの型があります。心当たりがないか確かめてみてください。

  • 目的から切れている:業界標準だからと並べただけで、自社が達成したいゴールとつながっていない。追っても何に効くのか誰も説明できません。
  • 現場が動かせない:結果の数字だけを置いていて、現場が自分の行動で変えられない。眺めるしかない指標は、行動を生みません。
  • 数が多すぎる:あれもこれもと並べた結果、どれが本命か分からない。全部が大事は、どれも大事でないのと同じです。

共通するのは、「目標 → 効く要因 → 現場の行動」という鎖が、どこかで切れていることです。この鎖をつなぐのが、KPI設計の本質です。

KGI・KSF・KPIを一本の鎖にする

KPI設計には決まった言葉が出てきますが、難しく考える必要はありません。次の4つを一本につなぐだけです。専門用語そのものより、つながりが大事です。

要素かみ砕くと今回の例
KGI(最終ゴール)最後に達成したい結果今期の営業利益を10%増やす
KSF(勝ち筋)そのゴールにいちばん効く要因受注率を上げる
KPI(測る数字)勝ち筋を測る指標受注率(受注数÷商談数)
現場の行動その数字を動かす具体的な動き失注理由の上位3つに毎週対策する

大事なのは、いちばん右まで、つまり「現場の行動」まで降ろすことです。KPIが行動に変換されて初めて、数字は動きます。

設計手順(受注率で営業利益を上げる例)

実際の手順を、ひとつの例で最後まで通してみます。やることは5ステップです。

ステップやることこの例での中身
1. KGIを1つ決める今期の最終ゴールを一つに絞る営業利益を10%増やす
2. 効く要因を分解するゴールを要因に分け、勝ち筋を1つ選ぶ利益→売上→受注数→受注率。今期は受注率にてこ入れ
3. KPIを決める勝ち筋を測る数字を定義する受注率=受注数÷商談数(月次)
4. 現場の行動に落とすその数字を動かす具体行動を決める失注理由を毎週記録し、上位3つに対策を打つ
5. 先行・遅行をそろえる早く動く指標と結果の指標を1つずつ持つ先行=提案までの日数、遅行=受注率

このように「KGI→要因→KPI→行動」と降ろすと、現場は「受注率のために、失注理由の上位3つへ毎週手を打てばいい」と、自分のやることが分かります。ステップ2の分解を丁寧にやる方法はKPIツリーの作り方で、記入例つきで掘り下げます。

数字にすると、勝ち筋を選ぶ意味がはっきりします。たとえば商談が月100件、受注率20%なら受注は20件です。商談数を増やさずに受注率を25%へ上げれば、受注は25件です。同じ商談数のまま受注が25%増える計算です。だから今期は、受注率を勝ち筋に選びました。

良いKPIの条件(悪いKPIを避ける)

同じテーマでも、選ぶ指標で効き目が変わります。良いKPIには3つの条件があります。

  • 目的に直結する:KGIまでの鎖の上にある。追えばゴールに近づく。
  • 現場が動かせる:自分たちの行動で数字を変えられる。
  • 早く分かる:結果が出るのを待たず、こまめに確認できる。

逆に、PVやフォロワー数のように「多いと気分は良いが行動につながらない」バニティ指標は避けます。見分け方と、悪い指標を良い指標へ言い換える方法は良いKPIと悪いKPIの見分け方にまとめました。

数は絞る(多いほど効かない)

設計に慣れてくると、つい指標を増やしたくなります。しかし、1つのテーマで追う主役は3つまでが目安です。先行指標・遅行指標・無理をしていないかを見る歯止めの指標を、1つずつ組み合わせると過不足がありません。すでに指標が増えすぎて現場が疲れている場合は、KPIを増やすほど動かない(指標過多の直し方)で減らし方を解説しています。

先行・遅行・歯止めを組み合わせる

主役の3つは、性格の違う指標を組み合わせると過不足がありません。早く動いて先を読める先行指標、結果として出てくる遅行指標、無理をしていないかを見る歯止めの指標です。受注率の例なら、先行は「提案までの日数」、遅行は「受注率」、歯止めは「粗利率」です。先行指標が悪化すれば早めに手を打て、歯止めを見れば「安売りで数字を作っていないか」に気づけます。遅行指標だけを見ていると、気づいたときには手遅れになりがちです。

部門に展開する

全社のKGIが決まったら、各部門のKPIへ展開します。このとき、部門のKPIをそのまま足し上げて全社KPIにしないことが大切です。部門ごとの最適が、全社の最適とずれることがあるからです。全社のゴールから逆に降ろして、各部門が何に責任を持つかを決めます。営業・マーケティング・カスタマーサクセスの具体的な設計例は部門別KPI設計の実例でお見せします。

1枚で握る「KPI設計シート」

ここまでの要素を1枚にまとめると、関係者で握りやすくなります。先ほどの受注率の例で記入例を示します。これを自社の言葉に置き換えれば、設計の骨格ができあがります。

項目記入例
KGI(最終ゴール)今期の営業利益を10%増やす
KSF(勝ち筋)受注率を上げる
主役KPI受注率(受注数÷商談数・月次)
現場の行動失注理由の上位3つに毎週対策する
先行指標提案までの日数
遅行指標受注率・受注額
歯止めの指標粗利率(安売りで稼いでいないか)
見直し時期四半期ごと

この1枚があると、現場は「何を・どう動かすか」、経営は「それが目標にどう効くか」を、同じ紙の上で確認できます。指標と行動、そして無理をしていないかを見る歯止めまでが一望できるのが、このシートの狙いです。

設計でやりがちな失敗

最後に、設計の段階で陥りやすい失敗を挙げておきます。

  • 業界標準をそのままコピーする:他社で効く指標が自社で効くとは限りません。自社のKGIから降ろし直します。
  • 結果指標を現場に丸投げする:「売上を上げろ」では動けません。行動で変えられる指標まで降ろします。
  • 一度作って放置する:事業が変われば効く要因も変わります。四半期ごとに見直します。
  • 部門に好きなKPIを出させる:測りやすい量の指標が並びます。全社ゴールから各部門へ降ろします。

立て直しの実例:訪問件数から受注率へ

あるBtoB企業では、営業のKPIを「訪問件数」に置いていました。件数は毎月達成されるのに、受注は伸びません。現場は数をこなすために短い訪問を繰り返し、疲弊していました。典型的な、目的から切れたKPIです。

そこでKGI(営業利益)から降ろし直し、主役を「受注率」と、それを動かす行動「失注理由の上位3つへの対策」に変えました。あわせて、安売りで稼いでいないかを見る歯止めに粗利率を添えました。すると、1件の訪問を厚くする動きに変わり、半年で受注率が改善しました。同じ訪問数のまま受注が増えました。変えたのは、指標と行動のつなぎ方だけです。

まとめ

  • 動かないKPIは「目標→効く要因→現場の行動」の鎖が切れている。
  • KGI・KSF・KPI・行動を一本につなぎ、現場の行動まで降ろす。
  • 良いKPIは「目的に直結・現場が動かせる・早く分かる」。バニティ指標は避ける。
  • 主役は3つまで。部門へは全社ゴールから逆に降ろす。

まずは自社のKGIを1つだけ決め、そこから「効く要因→KPI→現場の行動」を一本、紙に書いてみてください。「指標は並べたのに現場が動かない」という鎖の切れ目を一緒にたどり直すだけでも、DE-STKの初回スポット相談を壁打ち相手に使っていただけたらうれしいです。

よくある質問(FAQ)

Q. KGIとKPIは何が違うのですか?

A. KGIは最終的に達成したいゴール(例:営業利益10%増)、KPIはそのゴールに効く要因を測る道中の指標(例:受注率)です。KGIは結果、KPIは過程と覚えると分かりやすいです。両者を勝ち筋(KSF)でつなぐのが設計の肝です。

Q. KPIはいくつ設定すればよいですか?

A. 1つのテーマにつき主役は3つまでが目安です。先行・遅行・歯止めの指標を1つずつ組み合わせると過不足がありません。多いほど良いというのは誤解で、増やすほど一つひとつへの注意が薄まります。

Q. 現場が動かないKPIは、どう直せばよいですか?

A. その指標を「現場が自分の行動で動かせるか」で見直します。結果だけの数字なら、それを動かす一段手前の行動指標に置き換えます。たとえば「受注率」だけでなく「失注理由への対策件数」を加え、行動に結びつけます。

Q. KPIはどのくらいの頻度で見直すべきですか?

A. 四半期ごとの見直しが目安です。事業の状況や注力テーマが変われば、効く要因も変わります。前期の主役を惰性で残さず、その時のKGIに効く指標へ入れ替えます。