全社の目標は「営業利益10%増」。一方、現場に下りているKPIは「架電数」。その間がすっぽり抜けていて、現場は「なぜ電話の数を追うと利益が増えるのか」が腹落ちしないまま、ただノルマをこなしています。経営に「このKPIで本当に目標に届くのか」と聞かれても、つながりを説明できません。KPI設計を任された方から、わたしたちはこうした声をよく聞きます。

しかし、目標と現場の行動が飛んでしまうのは、あいだの分解を省いているからです。ここを埋めるのがKPIツリーです。全体の設計手順はKPI設計の基本でお伝えしていますが、ここでは「目標を現場のアクションまで分解する」作業だけを、記入例つきで掘り下げます。

KPIツリーとは:目標から行動までの地図

KPIツリーは、最終目標(KGI)を要因に分解していき、最後は現場が自分の行動で動かせる指標までつなげた地図です。地図があると、現場は「自分のこの数字が、巡り巡って利益につながっている」と分かり、経営は「この打ち手が目標にどう効くか」を一目で確認できます。難しい図を描くことが目的ではありません。目標と行動を線でつなぐことが目的です。

作り方:掛け算で分解する(営業利益の例)

コツは、足し算ではなく掛け算で分解することです。掛け算で分けると、どの要素を何%動かせば結果がどう変わるかが見えます。営業利益を例に、上から降ろしてみます。

階層分解現場が動かせるか
KGI営業利益 = 売上 − コスト直接は動かせない(最終結果)
売上の分解売上 = 受注数 × 客単価まだ大きい
受注数の分解受注数 = 商談数 × 受注率近づいてきた
現場のKPI商談数/受注率/客単価動かせる(行動で変えられる)

こうして降ろすと、「架電数」は商談数を増やすための一手段にすぎないと分かります。現場が本当に追うべきは商談数や受注率で、架電数はその下の打ち手の一つ、という位置づけが見えてきます。これが、目標と行動をつなぐということです。

数字で見ると効き目が分かります。商談100件・受注率20%なら受注は20件です。受注率を25%に上げれば、同じ商談数で受注25件です。どの枝をどれだけ動かすと結果がどう変わるか、掛け算の分解だと一目で分かります。

各層で「現場が動かせるか」を確認する

分解しながら、各層で「これは現場が自分の行動で動かせるか」を必ず確認します。動かせない結果指標(営業利益そのものなど)で止めると、現場は手の出しようがありません。逆に、現場が動かせる層まで降りたら、そこがKPIの置きどころです。今回なら、商談数・受注率・客単価が現場の動かせる指標で、ここを主役にします。

さらに一段、行動まで降ろすと現場はもっと動きやすくなります。たとえば受注率なら「失注理由の上位3つに毎週対策する」、商談数なら「紹介依頼を1日2件出す」といった具合です。指標と行動はセットで渡します。

ありがちな失敗

ツリーづくりには、いくつかの定番のつまずきがあります。

  • 足し算で分解する:「売上=A部門+B部門」と足すだけだと、何を動かせば効くのかが見えません。まずは掛け算で要因に分けます。
  • 細かく分けすぎる:枝を増やしすぎると、どれが効くのか分からなくなります。現場が動かせる層まで来たら止めます。
  • 動かせない指標で止める:結果指標を現場に渡しても動けません。必ず行動で変えられるところまで降ろします。
  • 全部を追わせる:ツリーの枝を全部KPIにすると数が膨れます。ツリーは「効く少数を見つける」道具です。

ツリーから「今期の主役」を選ぶ

ツリーを描く目的は、網羅ではなく取捨選択です。描いた中から、今期いちばん効きそうで、かつ現場が動かせる指標を主役に選びます。たとえば「今期は受注率にてこ入れする」と決め、商談数や客単価は補助に回す、という具合です。主役を3つ程度に絞る理由と、増やしすぎたときの直し方はKPIを増やすほど動かない(指標過多の直し方)にまとめています。

もう一つの例:ECの売上を分解する

業種が変わっても、手順は同じです。ECの売上なら、次のように掛け算で分解できます。

階層分解現場が動かせるか
KGI売上 = セッション数 × CVR × 客単価まだ大きい
セッション数流入施策(広告・SEO・SNS)で増やす広告に依存し変動が大きい
CVR商品ページ改善・カゴ落ち対策動かせる
客単価クロスセル・まとめ買い提案動かせる

この場合、現場が安定して動かせるのはCVRと客単価です。セッション数は広告費に左右されて変動が大きいので、主役はCVRと客単価に置き、セッション数は補助で見る、といった判断ができます。掛け算で分け、現場が動かせる層まで降ろします。この型は業種を問わず使えます。

誰と描くか

ツリーは経営企画だけで描き切らず、現場を巻き込んで描くのがおすすめです。一緒に降ろすと「その指標は自分たちの行動で動かせるか」がその場で分かり、でき上がったツリーへの納得も得られます。押しつけられたKPIは動かしてもらえませんが、一緒に描いたKPIは自分ごとになります。

結果指標だけのツリーは動かない

ありがちな失敗を、もう一つ挙げます。ツリーの末端を「受注率」のような結果指標で止めると、現場は「で、どうやって上げるの?」と手が止まります。もう一段、行動まで降ろすのが肝心です。たとえば受注率の下に「失注理由の記録」と「上位3つへの対策」を、商談数の下に「紹介依頼の件数」を置きます。末端を行動にすると、現場は明日から動けます。指標で終わらせず、行動で終わらせるのがコツです。

まとめ

  • 目標と現場の行動が飛ぶのは、あいだの分解を省いているから。
  • 掛け算で分解し、現場が動かせる層までKGIを降ろす。
  • 各層で「動かせるか」を確認し、指標と行動をセットで渡す。
  • ツリーは網羅でなく、効く少数の主役を選ぶための道具。

まずは自社のKGIを1つ選び、掛け算で3段ほど降ろしてみてください。ホワイトボードに30分でも、現場が追うべき指標が見えてきます。全体の設計はKPI設計の基本に、良い指標の選び方は良いKPIと悪いKPIの見分け方にまとめています。「目標と現場がつながらない」ツリーの描き直しだけでも、DE-STKの初回スポット相談を壁打ち相手に使っていただけたらうれしいです。

よくある質問(FAQ)

Q. 足し算と掛け算の分解は、どう使い分けますか?

A. まずは掛け算で要因に分けます。掛け算だと、どの要素を何%動かせば結果がどう変わるかが見え、打ち手の効き目を比べられます。部門別の内訳など、足し算が自然な場面もありますが、効く要因を探す段階では掛け算が基本です。

Q. どこまで細かく分解すればよいですか?

A. 現場が自分の行動で動かせる層まで来たら止めます。それ以上細かくすると、枝が増えて何が効くのか分からなくなります。目安は、KGIから3〜4段で現場の指標に届く程度です。

Q. ツリーの枝は全部KPIにすべきですか?

A. いいえ。ツリーは効く少数を見つけるための地図です。描いた枝の中から、今期いちばん効き、現場が動かせる指標を主役に選びます。全部を追うと数が膨れ、かえって動かなくなります。