「ちょっとこの数字出して」「この資料に使うグラフ作って」。そんな依頼が次々に飛んできて、データ担当は一日中それをさばくだけで終わってしまいます。本当はじっくり分析して事業に効く発見を届けたいのに、手が回りません。やがて優秀な人ほど「ここにいても伸びない」と感じ、静かに辞めていきます。データ活用を任された方から、わたしたちはこうした悩みをよく聞きます。

しかし、便利屋化は本人の段取りが悪いからでも、依頼する人が意地悪だからでもありません。依頼の通り方に仕組みが無いことが原因です。裏を返せば、受け方を変えるだけで、出す人は報われ、依頼の質まで上がります。文化づくり全体の中での位置づけは データドリブン文化のつくり方 に、人材が辞めていく構造は 優秀なデータ人材が辞めていく会社の特徴 にまとめています。

「便利屋」化はこうして起きる

便利屋化には決まったパターンがあります。思いつきの依頼が、口頭で、直接、締切つきで飛んできます。すると優先順位がつけられず、声の大きい人の依頼から手をつけることになります。出した数字が何の判断に使われたのかも分からないまま、次の依頼が来ます。これでは分析が意思決定につながらず、貢献も見えないので評価もされません。

人が辞めると、その穴は思いのほか高くつきます。中途で1人採り直すと、人材紹介の手数料だけで理論年収の3割前後(年収700万円なら約210万円)が出ていきます。さらに空席の間に積み上がる依頼を他のメンバーが残業でさばくコストや、新しい人が立ち上がるまでの数か月もかかります。便利屋化を放っておくのは、見えにくいだけで決して安くありません。

依頼に「どの判断が変わる?」のゲートを1つ置く

まず変えるのは依頼の入口です。専用のフォームでもチャットの定型でも構いません。依頼するときに1項目だけ、必ず書いてもらいます。「この数字で、どの意思決定が・どう変わりますか」。これだけです。

この一文が書けない依頼は、たいてい「今すぐ」ではありません。書いてもらう過程で、依頼者自身が「何のために欲しいのか」を考えるようになり、雑な依頼が自然に減ります。

雑な依頼良い依頼
頼み方先月の売上、部門別で出して不振部門にてこ入れするか決めたい。判断のため先月の部門別売上が見たい
使われ方出して終わり。何に使ったか不明会議でてこ入れの可否を決める
優先度つけられない意思決定の重さで判断できる

断らずに「順番」をつける

すべての依頼に全力で応えようとすると、いつか潰れます。かといって「できません」と断るのも角が立ちます。そこで「やる・やらない」ではなく「今週か、来週か」を決めるようにします。

週のはじめに、来ている依頼を一覧にして見える場所に置きます。簡単なボードやスプレッドシートで十分です。そのうえで、さきほどの「どの判断が変わるか」をもとに、意思決定インパクトの大きい順に並べます。依頼者にも一覧が見えるので、「自分のはなぜ来週なのか」が伝わり、納得が得られます。出す側が一人で抱えて断るのではなく、優先順位を依頼者と一緒に決める形にするのがコツです。

分析を意思決定に結びつけ、見えるようにする

便利屋から抜け出す決め手は、出した分析が「何を変えたか」を記録することです。難しく考える必要はなく、1行で構いません。「この分析で、不振だったA部門の販促を止め、B部門に寄せる判断をした」。これを月に一度、チームや経営に共有します。

こうしてデータ担当の仕事が、雑用の山ではなく「意思決定を変えた貢献」として見えるようになります。見えるようになって初めて、正しく評価できます。出した本人のやりがいにもつながり、辞める理由が一つ減ります。

評価では「さばいた数」でなく「変えた判断」を見る

最後に、上司が見る指標を変えます。「依頼を何件こなしたか」で評価すると、便利屋化はむしろ加速します。たくさんさばいた人が褒められるなら、誰も「この依頼は本当に必要か」を問わなくなるからです。

見るべきは「どの意思決定をどう変えたか」です。件数ではなく、事業に効いた分析がいくつあったかで評価します。評価軸を変えるのは経営や管理職の仕事なので、ここは 会議の決め方を変える取り組み とセットで進めると動かしやすくなります。

まとめ

  • 便利屋化は依頼の通り方に仕組みが無いことが原因。受け方を変える。
  • 依頼に「どの意思決定が変わるか」を1項目だけ必ず書いてもらう。
  • 断らず、意思決定インパクト順に「今週か来週か」を一緒に決める。
  • 出した分析が何を変えたかを1行で記録し、評価軸を件数から「変えた判断」へ。

まずは依頼フォームに「どの判断が変わるか」の一欄を足すところから始めてみてください。全体の進め方は データドリブン文化のつくり方 に戻って確認できます。データ担当の負担と評価のしくみを一緒に見直したいときは、DE-STKの 初回スポット相談 を壁打ちに使っていただけたらうれしいです。

よくある質問(FAQ)

Q. 依頼フォームを作ると「手間が増えた」と嫌がられませんか?

A. 必須項目を「どの判断が変わるか」の一つだけに絞れば、負担はほとんどありません。むしろ依頼者が目的を整理できるので、やり取りの往復が減ります。最初は重い依頼だけ対象にして、徐々に広げると無理がありません。

Q. 優先順位をつけると「後回しにされた」と不満が出ませんか?

A. 依頼の一覧と並び順を全員に見える形にすると、不満は出にくくなります。「やらない」ではなく「今週か来週か」を決めているだけだと分かるからです。判断の重さで順番が決まっていれば、多くの人は納得します。

Q. データ担当が一人しかいません。それでも回りますか?

A. 一人のときこそ、依頼の入口と優先順位の仕組みが効きます。抱えられる量に限りがあるからこそ、意思決定インパクトの大きい依頼に時間を割く必要があるためです。立ち上げ期は外部パートナーと組んで型をつくり、運用が落ち着いてから内製に寄せる進め方もあります。