高いBIツールを入れて、立派なダッシュボードもできあがりました。それなのに数週間もすると誰も開かなくなり、結局みんないつものExcelに戻っていきます。「使ってください」とお願いし続けるのも疲れますし、上層部からは「導入した効果は出ているのか」と聞かれて返答に詰まります。データ活用を任された方から、わたしたちはこうした声をよく聞きます。

しかし、使われない原因はツールでも現場のやる気でもありません。たいていは「そのダッシュボードが答えてくれる問いが、誰の仕事にも無い」だけです。裏を返せば、問いから作れば使われます。文化づくりの中での位置づけは データドリブン文化のつくり方 でも触れていますが、ここでは作り方そのものを具体的にお伝えします。

なぜ誰も使わないのか(道具のせいではない)

使われないダッシュボードには、共通の作られ方があります。順番が逆なのです。まずツールを選び、せっかくだからと全項目を詰め込んだ画面を作り、最後に「使ってください」とお願いします。この順番だと、現場は「どこを見れば自分の仕事が進むのか」が分からず、開く理由がありません。

放置されるダッシュボードがどう生まれるのか、その構造は 「とりあえず可視化」が危険信号になる理由 で詳しく扱っています。ここで押さえたいのは、作る順番を「ツール起点」から「問い起点」へ変えるという一点です。

使われない作り方使われる作り方
起点ツール・データ項目から現場の問いから
1画面の中身全項目を詰め込む1つの問いに答える
広め方「使ってください」とお願い既にある会議に埋め込む

既にある「業務の問い」を3つ拾う

作りはじめる前にやることは、新しい問いを考えることではありません。現場がすでに毎週口にしている問いを、3つだけ書き写すことです。会議や日報で繰り返し出てくる問いを拾えば十分です。

部門すでに毎週出ている問い
営業今月の着地見込みは?/止まっている案件はどれ?
EC昨日の売れ筋と在庫は?/どの広告から買われた?
カスタマーサポート問い合わせが増えているのはどの製品?

ポイントは、現場が答えを知りたくて、いまは手作業で集計している問いを選ぶことです。誰も困っていない問いを可視化しても開かれません。「これが毎週すぐ分かったら助かる」と言われる問いから着手します。

1画面1問いで小さく作る

ダッシュボードは1画面につき1つの問いに答えるものとして作ります。指標は多くても3つにとどめます。あれもこれもと載せた「全部入り」は、どこを見ればいいか分からず、結局開かれなくなる禁じ手です。

「今月の着地見込みは?」に答える画面なら、見込み金額・残り日数・目標との差だけで十分です。情報は足すより削るほうが使われます。最初に1画面できたら、それを現場に見せて反応を確かめ、次の問いへ進みます。

既存の会議に埋め込む(置いておくだけでは使われない)

良い画面を作っても、「あとは各自で見てください」では根づきません。人は新しい習慣をなかなか始められないからです。そこで、すでにある週次会議の冒頭で同じ画面を全員で開くようにします。会議の議題を、その画面が答える問いと揃えるのです。

毎週その場で開いていると、やがて「会議の前に自分で見ておこう」という人が出てきます。こうして単体の画面から、自分でデータを見にいく習慣へとつながります。会議そのものの進め方は 経営会議を「感覚」から「根拠」へ変える進め方 とあわせて整えると効果的です。

詰まったら聞ける人を1人決める

「使い方が分からない」「数字の意味が読めない」という最初のつまずきで、人は離れていきます。これを防ぐには、各チームに気軽に聞ける相談役を1人置くのが効きます。専任である必要はありません。現場の中で少し数字に詳しい人で十分です。

役割は「教えること」ではなく「最初の質問を受ける窓口」になることです。聞ける相手がいるだけで、現場の心理的なハードルはぐっと下がります。この相談役は、業務の中でリテラシーを広げる役割とも兼ねられます。詳しくは データリテラシー研修が身につかない理由 をご覧ください。

使われないまま放置するコストを見ておく

「とりあえず入れておく」が高くつくことも、頭の片隅に置いておきます。たとえば50席で1席あたり月1,500円のツールなら、ライセンスだけで年間90万円ほどになります。加えて、最初のダッシュボードを作るのに担当者が3か月を費やしたとすると、人件費は給与そのものではなく社会保険や設備・間接費まで含めた総コスト(一般に給与の約3倍)で見るのが実態です。誰も開かなければ、これらがまるごと無駄になります。だからこそ、小さく問いから作って「使われる」ことを先に確かめる価値があります。

まとめ

  • 使われない原因はツールでなく「答える問いが無い」こと。問いから作る。
  • 現場がすでに毎週口にしている問いを3つ拾う。新しく作らない。
  • 1画面1問い、指標は3つまで。全部入りは禁じ手。
  • 既存の会議に埋め込み、相談役を1人置く。置きっぱなしにしない。

まずは現場が毎週手作業で集計している問いを一つ探すところから始めてみてください。どこで止まっているか分からないときは データ活用が止まる4つの詰まり で詰まりどころを確かめ、全体の進め方は データドリブン文化のつくり方 に戻って確認できます。どの問いから作るか迷うときは、DE-STKの 初回スポット相談 を壁打ちに使っていただけたらうれしいです。

よくある質問(FAQ)

Q. すでに作った全部入りダッシュボードはどうすればよいですか?

A. 全部を作り直す必要はありません。現場が実際に毎週使っている問いを1つ選び、それに答える画面を切り出すところから始めます。使われる画面ができてから、不要な項目を少しずつ減らしていくのが現実的です。

Q. どのBIツールを選べばよいですか?

A. ツール選びは本質ではありません。まず答えるべき問いと、必要なデータがどこにあるかを決めるのが先です。問いが固まれば、無料のものを含めて十分に作れます。ツールから入ると「入れたのに使われない」を繰り返しやすくなります。

Q. 現場が見てくれるようにするには何がいちばん効きますか?

A. すでにある会議に埋め込むことです。週次会議の冒頭で同じ画面を全員で開く習慣にすると、やがて各自が会議前に見るようになります。「各自で見てください」とお願いするだけでは、ほとんど定着しません。