鳴り物入りで全社にChatGPTのアカウントを配りました。それなのに3か月後、実際に使っているのは1割ほどです。聞こえてくるのは「何に使えばいいのか分からない」という声ばかりです。経理の担当者は請求書チェックに使おうとして、金額の計算をAIに任せたら数字がずれ、「やっぱり使えない」と離れていきました。営業の担当者は最新の競合価格をたずねて、もっともらしい嘘の数字を返され、これも「使えない」と見切りをつけました。あなたは「せっかく予算を取ったのに」と、肩身の狭い思いをしています。
生成AIの推進を任された方から、わたしたちはこうした声を本当によく聞きます。しかし、それは生成AIが使えないのではありません。当てている業務を間違えているだけです。向き不向きには、はっきりした見分け方があります。全体像は生成AIを業務に効かせる進め方でお伝えしていますが、ここでは「使いどころの見極め」だけを、自部門の業務を点数化するところまで掘り下げます。
「使えない」の正体は、業務とのミスマッチ
さきほどの経理と営業の失敗を、もう少し分解してみます。生成AIは「それらしい文章を作る」ことは驚くほど得意ですが、「正確な計算」や「最新の事実の参照」は苦手です。経理の担当者は得意でない計算を任せ、営業の担当者は学習範囲の外にある最新価格をたずねました。どちらも、道具の性質に合わない業務に当ててしまったのです。
裏を返せば、性質に合う業務に当てれば、同じ生成AIが見違えるように働きます。大事なのは「うちでは使えるか」と漠然と考えることではなく、「どの業務になら任せられるか」を一つずつ見極めることです。
向く業務の3条件
向いている業務には、共通する3つの特徴があります。なぜ効くのかという理由とセットで押さえると、判断がぶれません。
- 量が多い:1回あたりの時短はわずかでも、回数が多ければ効果が積み上がります。逆に月に数回の業務は、手作業のままで十分なことがほとんどです。
- ある程度型が決まっている:要約・分類・下書きのように、やることの形が見えていると、指示が安定し、出てくる品質も揃います。
- 多少の誤りを人が直せる:生成AIは必ず間違えるという前提に立ちます。人が確認して直せる工程なら、間違いが致命傷になりません。
この3つが揃う業務は、生成AIに下書きや一次処理を任せ、人が仕上げる形にすると、安全に時間が浮きます。
向かない業務も、工夫すれば一部は任せられる
「向かない」と聞くと一切使えないように思えますが、そうではありません。業務まるごとでなく、任せる工程を選べば活かせます。
| 向かない業務 | なぜ向かないか | でも、この工程なら任せられる |
|---|---|---|
| 請求額・在庫数の計算 | 正確さが必須で、AIは計算を外す | 計算はシステムに任せ、結果の説明文をAIに下書きさせる |
| 最新の法改正・統計の参照 | 学習範囲の外は誤りやすい | 最新の資料を社内で用意し、それを読ませて答えさせる |
| 採用合否などの最終判断 | 誤れない判断は人が責任を持つ | 応募書類の要約や論点整理までを任せる |
| 顧客への最終回答 | 誤りが顧客に直撃する | 社内用の下書きまで。送信前に人が必ず確認する |
「向かない業務」ほど、AIに任せる範囲と人が担う範囲の線引きが効いてきます。全部か無か、で考えないことがコツです。
自部門の業務を点数化して候補を選ぶ
頭の中だけで考えると迷うので、簡単な点数化をおすすめします。自部門の業務を3つほど書き出し、次の3軸をそれぞれ1〜3点でつけて合計します。
| 軸 | 1点 | 2点 | 3点 |
|---|---|---|---|
| 頻度(量の多さ) | たまに | 週に数回 | 毎日 |
| 手間(1回の負担) | 軽い | 中くらい | 重い |
| 許容できる誤り | 誤れない | 確認すれば可 | 多少の誤りは平気 |
たとえば営業部で実際につけてみると、次のようになります。
| 業務 | 頻度 | 手間 | 許容誤り | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 提案書のたたき台づくり | 3 | 3 | 2 | 8 |
| 失注理由の仕分け | 3 | 2 | 3 | 8 |
| 競合の最新価格調査 | 2 | 2 | 1 | 5 |
合計8点の2つが最初の候補になります。一方、競合の最新価格調査は5点で、しかも「最新の事実」という不得意分野なので、最初からは外します。こうして数字で並べると、感覚ではなく根拠で候補を選べます。
「下書きはAI、仕上げは人」を最初に決める
向く業務であっても、出力をそのまま使うのではなく、人が確認して仕上げる形を基本にします。狙いは、人の仕事をゼロにすることではなく、ゼロから始める手間を減らすことです。
たとえば提案書のたたき台づくりなら、これまでは白紙から60分かけていたものが、AIにたたき台を出させて人が25分で編集する形に変わります。質はむしろ安定し、書き始めの心理的なハードルも下がります。この「下書きはAI、判断と仕上げは人」という役割分担を最初に共有しておくと、現場の安心感がまるで違います。
提案書のたたき台なら、たとえば次のような指示文から始められます。実績や数値はあえて空欄にしておくのがコツで、もっともらしい嘘(ハルシネーション)を防げます。
次の条件で提案書のたたき台を作ってください。
・宛先:(業種・役職)
・相手の課題:(一文で)
・提案の柱:(3つまで)
・トーン:丁寧で分かりやすく
※数値や実績は[要確認]と空欄にし、こちらで埋めます。
よくある勘違いを外しておく
使いどころを狭めてしまう思い込みも、先に外しておきます。
- 「精度100%でないと使えない」:下書き用途なら、人が直す前提なので十分です。完璧を求めて使わないほうが、機会の損失になります。
- 「専門知識がないと無理」:要約や下書きは、特別な知識がなくても始められます。難しいのは使う前の業務選びと守りのルールづくりで、そこは本記事の手順で進められます。
- 「最新の話題には弱いから役に立たない」:最新情報が必要なときは、社内の資料を読ませれば答えられます。何でも知っている前提で使わないことが大切です。
まとめ
- 「使えない」の多くは、道具の性質に合わない業務に当てたミスマッチ。
- 向く業務は「量が多い・型がある・誤りを人が直せる」の3条件。
- 向かない業務も、任せる工程を選べば一部は活かせる。全部か無かで考えない。
- 自部門の業務を「頻度×手間×許容できる誤り」で点数化し、根拠で候補を選ぶ。
まずは自部門の業務を3つ書き出し、今日の点数表で合計を出してみてください。候補が決まったら、次は最初に試す1つを選びます。選び方と小さな始め方は最初のユースケースの選び方に、全体像は生成AIを業務に効かせる進め方にまとめています。「何に使えばいいか分からない」から抜け出す業務の棚卸しだけでも、DE-STKの初回スポット相談を壁打ち相手に使っていただけたらうれしいです。
よくある質問(FAQ)
Q. 社内文書の検索は向く業務ですか?
A. 条件付きで向きます。質問に答えさせる使い方は便利ですが、元になる文書が整理され、最新に保たれていることが前提です。古い資料が混ざっていると誤った回答が増えるため、まずは対象を絞った最新の文書から始めるのが安全です。
Q. 点数化はどのくらいの粒度でやればよいですか?
A. 厳密さは要りません。各部門で業務を3つほど挙げ、3軸を1〜3点でざっくりつける程度で十分です。目的は順位づけなので、完璧な評価より、候補を絞って次の一歩に進むことを優先してください。
Q. 複数の部門で同時に始めてもよいですか?
A. まずは1部門・1業務で型をつくることをおすすめします。最初に成功の型と注意点が見えると、他部門への横展開がぐっと楽になります。点数化は各部門で並行して進めても構いませんが、最初に試すのは1つに絞るのが安全です。