「データで何か分かることない?」と上司に言われ、とりあえず売上をいろいろ集計してみます。けれども見せると「いや、こういうことじゃなくて」と返されます。自分でも何を調べたいのかが曖昧なまま、時間だけが過ぎていきます。データ分析を任された方から、わたしたちはこうした声をよく聞きます。

分析の成否は、手を動かす前の「問い」でほぼ決まります。問いが曖昧だと、どんなに集計しても的を外します。逆に、答えの出る問いに変えれば、分析は驚くほどスムーズに進みます。まずは、曖昧な問いと答えの出る問いを見比べてください。

曖昧な問い(迷子になる)答えの出る問い(進む)
売上を分析して直近3か月で受注率が下がった製品はどれか
顧客を理解したい解約した顧客は、解約前にどんな利用状況だったか
広告は効いている?どの広告経路が、商談化までつながったか
在庫を何とかしたいどの商品が、何週間以上滞留しているか

右側はどれも、すぐに分析に取りかかれます。違いは、次の3つの要素が入っているかどうかです。

答えの出る問いの3要素

答えの出る問いには、比較・期間・対象の3つが含まれています。これらが欠けると、何を見ればいいかが定まりません。

要素意味
比較何と比べるか前年同月/他製品/目標値
期間いつのデータか直近3か月
対象誰の・何の数字か新規顧客の製品A

「売上を分析して」に3要素を足すと、「製品Aの新規顧客の受注率を、前年同月と比べてどうか」となります。ここまで具体になれば、誰がやっても同じ分析にたどり着けます。

そのまま使える、問いのテンプレ

3要素を毎回ゼロから組み立てるのは大変です。次の一文の空欄を埋めるだけで、答えの出る問いができあがります。

「【期間】の【対象】の【指標】は、【比較対象】と比べてどうか」

記入例:「直近3か月の・製品Aの新規顧客の・受注率は・前年同月と比べてどうか」。空欄が埋まらないときは、まだ問いがぼやけているサインです。埋まらない欄を現場やデータ担当に確かめるところから始めると、問いは自然に締まっていきます。

「下したい判断」から逆算する

良い問いを立てる最大のコツは、出発点を「ほしい数字」ではなく「下したい判断」に置くことです。ほしい数字から入ると、集めただけで終わりがちです。判断から入ると、必要な問いが自然に決まります。

たとえば「来月、製品Aの販促予算を増やすか減らすか」を決めたいとします。すると問いは「製品Aの受注率は、どの顧客層で、いつから下がったか」に定まります。判断が先、問いが次、数字は最後です。この順番を守るだけで、的外れな集計が激減します。困っている判断から出発する聞き方はビジネストランスレーターの役割でも扱っています。

問いを絞り込む(worked example)

漠然とした相談を、答えの出る問いへ絞り込む流れを見てみます。

段階問いの変化
相談「最近、売上が伸びない。何とかしたい」
判断を決める「てこ入れするなら、新規か既存か」を決めたい
問いに変換新規と既存で、受注率はどちらがどれだけ下がったか
対象を絞る直近3か月・製品別で、新規の受注率を前年と比較

最初の「売上を何とかしたい」のままでは動けませんが、4段階で絞ると、その日のうちに分析を始められます。

漠然とした依頼を、その場で問いに変える

上司や現場からの依頼は、たいてい漠然としています。受け取ったその場で問い返して絞るのが、いちばんの早道です。聞き返すのは失礼ではありません。的を外さないための、大事なひと手間です。

相手の言葉こう聞き返す
「売上、何とかして」「どの判断のためですか。来月の予算を増やすか減らすか、ですか?」
「顧客を理解したい」「理解できたら、次に何を決めますか?」
「とりあえず全部見たい」「いちばん知りたい一つは、どれですか?」

こう聞き返すと、相手も「ああ、要するに来月の予算を決めたいんだ」と、自分の本当の目的に気づきます。そこまで来れば、問いはほぼ決まったも同然です。問い返すこと自体が、橋渡し役の値打ちのある仕事です。

仮説を1つ持ってから始める

問いが決まったら、当てずっぽうで集計に入らず、仮説を1つ持ちます。「たぶん新規の受注率が落ちている」と仮の答えを置くと、確かめるべきデータが絞れ、分析が速くなります。仮説が外れても問題ありません。外れたと分かること自体が、立派な発見です。仮説がないと、あれもこれもと集計して時間を溶かします。

問いでやりがちな失敗

  • 漠然のまま始める:「売上を分析」では迷子になります。比較・期間・対象を必ず入れます。
  • ほしい数字から入る:集計して終わりがちです。下したい判断から逆算します。
  • 網羅しようとする:全項目を出すと、どれが効くか分からなくなります。問いを1つに絞ります。

まとめ

  • 分析の成否は最初の問いで9割決まる。曖昧な問いは迷子のもと。
  • 答えの出る問いには「比較・期間・対象」の3要素を入れる。
  • 「ほしい数字」でなく「下したい判断」から逆算する。
  • 仮説を1つ持ってから始める。外れても発見になる。

まずは、いまの課題を「どんな判断を下したいか」から書き出し、3要素を足して問いに変えてみてください。分析全体の進め方はデータ分析の進め方、立てた問いをどう分析するかは分析の4つの型にまとめています。問いの立て方を一緒に整理したいときは、DE-STKの初回スポット相談を壁打ち相手に使っていただけたらうれしいです。

よくある質問(FAQ)

Q. 上司の相談が漠然としていて困ります。

A. 「どんな判断をしたいですか」「結果が出たら何をしますか」と聞き返すのがコツです。ほしい数字でなく、困っている判断から出発すると、必要な問いが定まります。聞き返すこと自体が、橋渡し役の大事な仕事です。

Q. 仮説が思いつきません。

A. 現場の人に「どこが怪しいと思いますか」と聞くと、たいてい良い仮説が出ます。現場の肌感覚は、有力な仮説の宝庫です。完璧な仮説でなく、確かめる出発点として、仮の答えを1つ置けば十分です。

Q. 問いが多すぎて絞れません。

A. 「いちばん大きな判断は何か」で優先順位をつけます。今いちばん決めたい判断に直結する問いを1つだけ選び、残りは後回しにします。一度に1つの問いに集中するほうが、結局は早く打ち手に届きます。

Q. 立てた問いが良いかどうか、どう確かめますか?

A. 2つで確かめられます。1つは「比較・期間・対象」の3要素がそろっているか。もう1つは「答えが出たら、何を決めるか」が言えるか。どちらも言えれば、その問いは分析に進めて大丈夫です。どちらかが詰まるなら、もう一歩絞り込む余地があります。