現場は「数字を使って何とかして」と漠然と言ってきます。データ担当は言われた通りに集計して出すのに、「いや、こういうことじゃない」と返されます。会議でデータの話を始めると、現場には通じず、分析結果を見せても「よかったね」で終わり、行動は何も変わりません。データ活用を任された方から、わたしたちはこうした噛み合わなさをよく聞きます。
噛み合わないのは、どちらかが悪いからではありません。あいだをつなぐ「翻訳役」がいないだけです。翻訳役がいると、やり取りはこう変わります。
| 翻訳前(噛み合わない) | 翻訳後(動く) |
|---|---|
| 「売上を数字で何とかして」 | 「どの顧客層で解約が増えたかを見たい」 |
| 「とりあえず全部集計して」 | 「来月の発注判断に要る3指標だけ出して」 |
| 「分析、よかったね」(で終わり) | 「では来週から解約予兆の客に連絡しよう」 |
| 「広告、効いてる感じ?」 | 「どの経路が商談化までつながったか?」 |
| 「在庫、なんとなく多い」 | 「どの商品が何週間滞留しているか?」 |
ビジネストランスレーターとは
ビジネストランスレーターは、事業の言葉とデータの言葉を、双方向に通訳する橋渡し役です。専任の肩書きを採る必要はありません。事業と現場を理解し、データの基本も分かる人なら担えます。実は、経営企画やDX推進の担当者は、この役にいちばん向いています。両方の世界に足をかけているからです。
何をする人か:2つの翻訳
翻訳役の仕事は、入口と出口の2つです。
| 翻訳の向き | やること |
|---|---|
| 入口:業務課題 → 分析の問い | 現場の漠然とした困りごとを、データで答えられる具体的な問いに直す |
| 出口:分析結果 → 現場の行動 | 出てきた数字を、現場が明日とれる行動に翻訳する |
この入口と出口が抜けると、データ担当は「言われた集計」を出すだけになり、現場は「数字を見て終わり」になります。翻訳役がいて初めて、依頼は的を射た分析になり、結果は行動に変わります。
翻訳の実例
たとえば、現場から「最近どうも売上が伸びない、データで何とかならないか」と相談が来たとします。翻訳役は、まず入口を翻訳します。「伸びないのは新規か既存か」「解約が増えたのか、単価が下がったのか」と問いを分け、「直近3か月で解約が増えた顧客層はどこか」という分析可能な問いに変えます。
分析の結果、「利用頻度が落ちた既存顧客の解約が増えている」と分かったら、次は出口の翻訳です。「では、利用が落ちた顧客のリストを毎週出し、カスタマーサクセスが先回りで連絡する」という行動に落とします。ここまで翻訳して、はじめて数字が成果につながります。
誰が担い、どう育てるか
多くの会社では、経営企画やDX推進の担当者が翻訳役を兼ねるのが現実的です。専門のデータ知識は、深い技術までは要りません。「この問いはデータで答えられるか」「この数字は何を意味するか」が分かる程度で十分です。育てるなら、現場の課題ヒアリングにデータ担当を同席させ、依頼を一緒に問いへ翻訳する経験を積ませると、橋渡しの勘所が身につきます。最初のうちは、翻訳役とデータ担当が二人で現場に同席し、その場で「これは要するに、どの判断のためか」を一緒に言葉にすると、両者の呼吸が早く合います。
翻訳役がいないと起きること
翻訳役が不在だと、2つの損失が起きます。第一に、的外れな依頼でデータ担当が便利屋化し、疲れて辞めてしまいます。第二に、せっかくの分析が行動に変わらず死蔵されます。前者を防ぐ依頼の受け方はデータを出す人を便利屋で終わらせない仕組みに、会議で結果を行動に変える進め方は経営会議を「感覚」から「根拠」へ変える進め方にまとめています。チーム全体の組み立てはデータ活用を担うチームの作り方をご覧ください。
翻訳の進め方(ヒアリングの問い)
入口の翻訳は、現場へのヒアリングから始まります。「どんな数字がほしいか」ではなく「どの判断に困っているか」から聞くのがコツです。次の問いが役立ちます。
| 聞く問い | 狙い |
|---|---|
| いま、どの判断に困っていますか? | ほしい数字でなく、目的から出発する |
| その判断は、何が分かれば下せますか? | 必要なデータと問いを特定する |
| 結果が出たら、誰が何をしますか? | 出口(行動)まで先に決めておく |
もう一つの実例:マーケの依頼を翻訳する
マーケティング担当から「広告がちゃんと効いているか知りたい」と相談が来たとします。入口の翻訳では、「効いている」を分解します。クリックは多いのか、問い合わせにつながっているのか、その先で受注まで届いているのか。そこで「各広告経路が、問い合わせと受注にどれだけつながったか」という問いに変えます。
分析の結果、「クリックは多いが受注につながらない経路」が見つかったら、出口の翻訳です。「その経路の予算を、受注までつながっている経路に振り替える」という行動に落とします。クリック数だけ見て満足するのと、受注までつないで予算を動かすのとでは、成果がまるで違います。
翻訳がうまい人の特徴
うまい翻訳役には、共通点があります。現場の言葉を最後まで聞きます。「つまり、こういう判断をしたいということですか」と言い換えて確認します。そして、分析結果を「だから明日こうしましょう」と行動に結びつけます。専門用語を使わず、相手の言葉で話せる人ほど、橋渡しがうまくいきます。スキルというより、両者への翻訳を面倒がらない姿勢が効きます。
まとめ
- 現場とデータが噛み合わないのは、間をつなぐ翻訳役の不在が原因。
- 翻訳役は専任でなくてよい。経営企画・DX推進が担うのに向く。
- 仕事は2つ。業務課題を分析の問いへ、分析結果を現場の行動へ。
- 不在だと、便利屋化による離職と、分析の死蔵が起きる。
まずは次にデータ担当へ依頼するとき、「この依頼はどの判断のためか」を一緒に言葉にしてみてください。それが翻訳の第一歩です。橋渡し役の置き方や育て方だけでも、DE-STKの初回スポット相談を壁打ち相手に使っていただけたらうれしいです。
よくある質問(FAQ)
Q. 専任のビジネストランスレーターを採用すべきですか?
A. 最初は不要です。経営企画やDX推進の担当者が兼ねるのが現実的で、むしろ事業を分かっている分だけ向いています。組織が大きくなり、橋渡しの量が増えてから専任を検討すれば十分です。
Q. 翻訳役に深いデータ分析のスキルは必要ですか?
A. 自分で高度な分析をする必要はありません。「この問いはデータで答えられるか」「この数字は何を意味するか」を判断できれば十分です。手を動かす分析は、データ担当や外部パートナーに任せられます。
Q. 現場のヒアリングがうまくいきません。コツはありますか?
A. 「何の数字がほしいか」ではなく「どの判断に困っているか」を聞くのがコツです。ほしい数字を聞くと的外れな集計になりがちです。困っている意思決定から出発すると、必要な問いが自然と定まります。
Q. 翻訳役と分析担当は分けるべきですか?
A. 小さなうちは兼ねても構いませんが、橋渡しと手を動かす分析は性質が違います。経営企画が翻訳役、データ担当や外部パートナーが分析、と分けると、双方が得意に集中できます。