半年前にやっと採ったデータアナリストが、退職の意向を伝えてきました。面接では「分析に集中できる環境です」と説明したのに、実際に任せていたのは各部署のExcelをつなぎ合わせる作業と、急ぎの集計ばかりでした。退職面談で言われたのは「何を期待されているのか、最後まで分かりませんでした」。社長は「また採ればいい」と言い、人事からは「紹介手数料がまた200万円かかります」と念を押されます。次の求人票を書く手が止まったまま、あなたの席には各部署からの集計依頼が積み上がっていきます。
一人目が辞めるのは、その人の力量や根気の問題ではないことがほとんどです。採る前に決めておくべきことが決まっていないまま、人を先に入れてしまっています。
採る前に決める4つのこと
| 決めること | 決まっていないと起きること | この記事の節 |
|---|---|---|
| 最初に要る役割 | 何でもできる人を探して、いつまでも採れない | 最初に要る役割は、どこで詰まっているかで決まる |
| 採るか、外部で始めるか | 受け皿が無いまま正社員を入れ、整地と雑用で疲れさせる | 正社員の前に、外部で3か月回す |
| 求人と面接で何を見るか | 来た人が自社の仕事に合うかを見極められない | 求人票と面接で、仕事の中身を正直に見せる |
| 入ってからの受け皿 | 孤立と便利屋化で、半年で辞める | 辞めるサインと、半年の育て方 |
最初に要る役割は、どこで詰まっているかで決まる
データの仕事には役割がいくつかありますが、最初から全部はそろえません。自社がいまどこで詰まっているかで、最初の一人が決まります。
| いまの詰まり | 最初に要る役割 | その人が最初の3か月でやること |
|---|---|---|
| 数字を出すたびに、毎回手作業で集計している | データを整える人(データエンジニア) | 毎週の手集計を、自動で更新される表に置き換える |
| 必要なデータが部署ごとにバラバラで、つながらない | データを整える人(データエンジニア) | 顧客や商品のコードをそろえ、1つの表で見られるようにする |
| データはあるのに、打ち手に変えられていない | 分析する人(データアナリスト) | 1つの判断に絞って分析し、会議で提案する |
| 分析は回っていて、予測に進みたい | 予測モデルを作る人(データサイエンティスト) | 需要や解約の予測を試し、業務に組み込む |
1・2行目(整える)と3行目(分析)の両方に当てはまるなら、整える側を外部に任せ、社内は分析と橋渡しに集中します。いきなりデータサイエンティストから採るのは、たいてい早すぎます。データが整っていない会社では、予測モデルを作る前の整地に時間のほとんどを取られ、本人の得意なことが何もできません。冒頭のアナリストも、同じように整地に時間を取られていました。
現場の困りごとと分析をつなぐ橋渡しは、経営企画やDX推進の担当者、つまりあなたが兼ねるのが現実的です。この役割の中身はビジネストランスレーター:現場とデータをつなぐ橋渡し役に書いています。
正社員の前に、外部で3か月回す
役割が決まっても、いきなり正社員を採らなくてかまいません。費用と、立ち上がるまでの時間を並べると判断しやすくなります。
人件費は給与額ではなく、社会保険・賞与・設備・間接費を含めた会社の総コストで見ます。一般に給与の約3倍です。外部への委託は、委託費に社内で管理する手間を足して約1.2倍で見ます。
| 比べる点 | 正社員(年収600万円) | 外部の専門家(週2日・月60万円) |
|---|---|---|
| 1年の費用 | 約1,800万円(1年目は紹介手数料を足して約2,000万円) | 約860万円(720万円×1.2) |
| 1人分の働きに直すと | 約1,800万円 | 約2,160万円(週2日は0.4人分) |
| 動き出すまで | 採用に3〜6か月 | 2〜3週間 |
| やめるとき | 簡単には減らせない | 契約期間で調整できる |
| 知見の残り方 | 社内に残る | 任せきりだと残らない。要件と判断を社内で持てば残る |
本文の金額は、説明のための例です。
1人分の働きに直すと、外部のほうが割高です。それでも立ち上げ期に外部が向くのは、受け皿ができる前の数か月を、必要な量だけ買えるからです。失敗したときの差で見ると、はっきりします。正社員が半年で辞めると、半年分の総コスト約900万円と紹介手数料約200万円、合わせて約1,100万円が何も残さずに消えます。外部と3か月試すなら、60万円×3か月×1.2で約216万円です。最初の3か月で、手集計の自動化を1つ終わらせ、手順書と定義の記録を社内に残します。正社員の求人は、外部と動き始めた月に出しておきます。採用には3〜6か月かかるので、待ってから出すと空白ができるためです。3か月で見えた仕事の量と中身を求人票に書き足していけば、入った人が迷いません。外部の専門家への頼み方と、渡す1枚の書き方はデータ活用・DX推進の進め方にまとめています。
雇用の形も、正社員だけではありません。たとえば週1日・3か月の業務委託で、手集計の自動化を1つ任せてみます。その3か月で、判断の速さ、現場への質問の仕方、相談のしやすさを見てから、正社員としての採用を打診します。
求人票と面接で、仕事の中身を正直に見せる
応募が来ない求人には、共通の書き方があります。何をする人かが具体的なほど、自分が活躍できそうだと感じた人が手を挙げます。
| 項目 | 来ない書き方 | 来る書き方 |
|---|---|---|
| 役割 | データ全般をお任せします | 散らばった受注データを整え、分析の土台を作ってもらいます |
| 最初の仕事 | DXの推進 | 週次の売上集計の自動化から始めます |
| 求める人 | 分析も基盤も予測もできる方 | データを整えるのが得意な方 |
| いまの状態 | (書かない) | データは部署ごとのExcelにあり、つながっていません |
最後の行を書くのは勇気が要ります。しかし入ってから知られるより、書いて応募してもらうほうが辞めません。冒頭の会社は、ここを書かずに「分析に集中できる環境」と説明していました。
面接では、相手の志向と、自社の受け皿の両方を確かめます。
| 聞くこと | 良い答え | 気をつけたい答え |
|---|---|---|
| 前の職場で、分析以外に時間を取られた仕事は何でしたか | 必要性を理解したうえで、自動化して分析の時間を作った工夫を語る | 「整地ばかりで嫌だった」で終わる |
| 意思決定を変えた分析で、印象に残っているものは | 「この分析で、◯◯の判断が変わった」と結果を語る | 使った手法の話だけで、結果に触れない |
| データが汚くてそろっていないとき、どう進めますか | 粗く始めて、足りない分を後から足す、と答える | 「まず全部整えてから」と答える |
採る前に、受け入れる側も点検します。次の4つのうち2つ以上が「いいえ」なら、採用より先にそちらを整えます。
– 最低限のデータを、手作業なしで取り出せる
– データの依頼に「どの判断のためか」を書いてもらう受付がある
– こなした件数ではなく、変えた判断で評価する用意がある
– 相談できる相手が、社内か外部に1人いる
辞めるサインと、半年の育て方
入ってからの数か月で、次のうち2つ以上が当てはまったら、辞める手前のサインです。
– 依頼の大半が、その場かぎりの集計や雑用になっている
– 出した分析が、判断に使われていない
– 評価の面談で、本人の成果を上司が説明できない
– 相談できる相手が、社内にも外部にもいない
– 入って3か月たっても、腰を据えた分析に1つも取り組めていない
月1回の1対1の面談では、雑談で終わらせず次の3つを聞きます。
| 聞くこと | 拾えるもの |
|---|---|
| いちばん時間を取られている仕事は何ですか | 便利屋化や整地ばかりになっている兆し |
| 最近、手応えのあった分析はありますか | 自分の仕事が活かされている実感の有無 |
| 次に挑戦したいテーマはありますか | 一緒に用意できる成長の機会 |
育て方は研修に送るより、仕事の中で少しずつ広げるのが基本です。一人目の最初の半年は、たとえば次のように進めます。
| 時期 | 任せる仕事 | 周りが用意すること |
|---|---|---|
| 1〜2か月 | 外部が残した手順書を引き継ぎ、残りの手集計を自動化して業務とデータに慣れる | データを持っている部署の担当者を、最初に紹介しておく |
| 3〜4か月 | 1つのテーマに絞って分析し、判断に提案する | 提案を聞く会議の場を、あなたが押さえる |
| 5〜6か月 | その分析を定例に乗せ、次の部署に広げる | 出した分析が何を変えたかを1行で記録し、月1回経営に共有する |
一人職場なら、四半期に1回でも外部の専門家に仕事を見てもらう場を作ると、技術の相談相手ができます。依頼の受け方を変えて便利屋化を止める具体的な手順は、データドリブン文化のつくり方の「データを出す人を便利屋で終わらせない」の節に書いています。
うまくいった会社と、辞めさせてしまった会社の違い
同じ規模の会社2社で、1年目の進め方を比べます。
| 時期 | うまくいった中堅メーカー | 半年で辞めさせてしまったサービス企業 |
|---|---|---|
| 最初の3か月 | 経営企画の担当者が橋渡しを兼ね、外部の専門家と組んで、発注用の在庫集計の自動化1つに絞った。手作業が月20時間減った | いきなりデータサイエンティストを1人採用した |
| 4〜6か月 | 外部と動き始めた月に出した求人で、データアナリストを1人採用。求人票に「データはまだ部署ごとのExcel」と書いた | データがバラバラで、本人は整地と急ぎの集計に追われた |
| 7〜12か月 | 外部と一緒に基盤と分析を整え、需要予測に進んだ。1年後には社内の1人で回せるようになった | 相談相手がおらず、評価も「何をしているか分からない」のまま。半年で退職した |
| 違い | 成果を出してから、仕事の中身が見える状態で採った | 受け皿と役割を決める前に、人を先に入れた |
経営に次の1人を通すときは、成果を先に見せる
チームを広げるには経営の納得が要ります。成果を見せる前に増員を求めても、まず通りません。小さな成果を数字で見せてから、次の一手と必要な投資を順に話します。
発注用の在庫集計を自動化し、手作業が月20時間減りました。
次は需要予測に進み、欠品を減らしたいと考えています。
そのために、データを整える担当をもう1人採りたいです。
経営はこの話を、増員の費用と並べて聞きます。年収600万円の担当を1人増やせば、会社の負担は年約1,800万円です。台詞の前に、次の一手で何がどれだけ変わる見込みかを、欠品で失っている売上と粗利の金額で1行にしておきます。手間が減った時間だけでは、増員の費用に届かないことが多いからです。
よくある質問(FAQ)
最初の一人は、データサイエンティストを採るべきですか?
たいていは早すぎます。データが整っていないうちは、予測モデルを作る前の整地に時間を取られ、本人の得意なことができません。毎回手作業で集計しているなら、データを整える人を先に置きます。データはあるのに打ち手にできていないなら、分析する人を先に置きます。
外注と正社員、どちらが安いですか?
年間の支払いだけを見ると、週2日の外注のほうが安く見えます。しかし1人分の働きに直すと、外部のほうが割高になることが多いです。外部の強みは、すぐ動けて、必要な量だけ買えることです。立ち上げの3か月は外部で回し、仕事の量と中身が見えてから正社員を採るのが、無理のない順番です。
社内に誰もいない状態で、データ人材を採っても大丈夫ですか?
受け皿が無いまま採ると、孤立して辞めやすくなります。採る前に、相談できる相手を社内か外部に1人用意し、データの依頼の受付と評価の仕方を決めておきます。それが難しければ、先に外部の専門家と3か月回し、受け皿を作ってから採ります。
情シスに兼任で任せてもよいですか?
情シスの本業はシステムの運用で、分析や現場の困りごとの翻訳は別の仕事です。兼任で始めるなら、データ活用に使う時間を週で固定し、整える作業は外部に任せ、兼任者は橋渡しと判断に集中する形にします。
データ人材の評価は、何を基準にすればよいですか?
こなした依頼の件数ではなく、出した分析がどの判断を変えたかで見ます。分析とそれが変えた結果を1行で記録し、月1回共有すると、上司も本人の成果を説明できるようになります。
採った一人目を半年で失う前に、自社がいまどこで詰まっていて、最初に誰が要るのかを決めるところから一緒に整理できます。求人票の「いまの状態」の行をどう書くかの相談だけでも、初回相談(30分・無料)でどうぞ。