上司から「最近、受注が鈍い。なぜか見てくれ」と言われました。とりあえず売上をいろいろな切り口で集計し、グラフを10枚作って会議に出します。返ってきたのは「ふーん」「で、どうするの」。営業部長からは「数字をいじる前に現場を見てくれ」と言われ、上司からは「来週までに理由を」と急かされます。打ち手につながらないまま資料だけが増え、自分でも結局何が分かったのかを説明できません。

分析が空回りするのは、統計の知識やツールが足りないからではありません。進める順番が抜けているだけです。順番を守れば、表計算ソフトだけで「集計して終わり」から「打ち手が出る」に変わります。

分析は4つの段階で進める

段階やることよくあるつまずき
1. 問いを立てる答えの出る問いに絞る「とりあえず全部集計」で迷子になる
2. データを集める問いに必要な列だけ用意する全部そろうまで待って進まない
3. 型で見る比較・推移・分解・相関を当てるグラフを眺めて終わる
4. 解釈して打ち手にする「だから何をするか」まで言う読み違えて的外れな結論を出す

ここからは、冒頭の「受注が鈍い」という依頼を1つ、最後まで通して解きます。

問いを立てる:依頼をその場で聞き返す

分析の成否は、手を動かす前の問いでほぼ決まります。「受注が鈍い、見てくれ」のままでは、何を見ればいいか決まりません。受け取ったその場で聞き返します。聞き返すのは失礼ではありません。的を外さないための手間です。

相手の言葉こう聞き返す
「受注が鈍い、見てくれ」「どの判断のためですか。来月の販促をどこに寄せるか、ですか」
「顧客を理解したい」「理解できたら、次に何を決めますか」
「とりあえず全部見たい」「いちばん知りたいのは、どれ1つですか」

聞き返してみると、上司が本当に決めたいのは「来月の販促予算を、どの製品のどの顧客に寄せるか」でした。判断が決まると、問いが決まります。出発点は欲しい数字ではなく、下したい判断です。

答えの出る問いには、比較・期間・対象の3つが入っています。次の一文の空欄を埋めると、問いができあがります。

「【期間】の【対象】の【指標】は、【比較する相手】と比べてどうか」

曖昧な問い3つを埋めた問い
受注を分析して直近3か月の、製品別・顧客区分別の受注率は、それまでの1年と比べてどうか
広告は効いている?直近3か月の、広告経路ごとの商談化した件数は、前の3か月と比べてどうか
在庫を何とかしたい今月末時点で、8週間以上動いていない商品はどれで、前年同月より増えているか

空欄が埋まらないなら、まだ問いがぼやけています。埋まらない欄を依頼者に確かめるところから始めます。

問いが決まったら、集計に入る前に仮の答えを1つ置きます。今回は「たぶん新規顧客の受注率が落ちている」としました。仮説があると確かめるデータが絞れ、外れても「外れた」と分かること自体が発見になります。

データは「この問いに最低限いる列」だけ集める

問いが決まったら、全部をそろえようとせず、答えに要る列だけを書き出します。受注の問いなら次の6列を、比べる相手の「それまでの1年」を含めて過去15か月分出します。

列中身なぜ要るか
商談ID1件ごとの番号重複を数えないため
製品製品A・B・C製品別に分けるため
顧客区分新規か既存か仮説を確かめるため
結果受注か失注か受注率を出すため
結果が決まった日受注日または失注日月ごとに並べるため
失注理由営業が選んだ理由原因の見当をつけるため

ここで一度、受注率の計算の決め方が部署でそろっているかを確かめます。分母が部署ごとに違うと、分析の前提ごと崩れます。そろえ方はKPI設計の進め方の「受注率が24%と18%に割れるのはなぜか」に書いています。

データは完璧にはそろいません。営業支援システムに入っていない情報は、分析の途中で人に聞いて足します。今回は、製品Aの平均単価を経理の売上データで確かめ、競合が値下げした時期を営業部長に聞きました。あわせて経理の契約データから、製品Aは導入後の保守費が競合品より年60万円ほど安いことも分かりました。足りないと分かったものを後から足すほうが、全部そろうのを待つより早く打ち手に届きます。

4つの型を順に当てて、原因を1か所に絞る

実務の分析の多くは、比較・推移・分解・相関の4つの型で足ります。高度な統計は、これで答えが出ないときに考えます。

型答える問い見せ方使うときに気をつけること
推移いつから変わったか折れ線グラフ1か月の上下で騒がない。数か月の流れで見る
分解どこで起きているか内訳の表一度に細かく割らない。差が出たところだけ1段ずつ割る
比較何と比べて高い・低いか棒グラフ・表新規と既存、繁忙期と閑散期を混ぜて比べない
相関何と一緒に動くか散布図一緒に動いても、原因とは限らない

迷ったら、推移で「いつから」をつかみ、分解で「どこで」を絞るところまでで、たいていの問いは前に進みます。「受注が鈍い」に4つを順に当てた結果が、次の表です。

段階使う型分かったこと
全体を見る推移受注率が3か月前の20%から16%に下がった。それまでの1年は19〜21%で安定していた
どこで起きたか分解(製品別)製品Aだけが下がり、BとCは横ばい
さらに絞る分解(顧客区分別)製品Aの新規顧客が、25%(40件中10件)から15%(40件中6件)に下がっていた
何が違うのか比較(新規と既存)製品Aの既存顧客は変わっていない。既存は乗り換えの手間があり、価格だけでは動きにくい
何と一緒に動いたか相関(月ごと)製品Aの新規で失注理由に「価格」を選んだ割合が高い月ほど、受注率が低い。「価格」の割合は3か月で倍になった

最後の段階で見当がついたので、営業部長に競合の動きを聞くと、ちょうど3か月前に競合が製品Aの対抗品を値下げしていました。データの外の情報で裏が取れたことになります。「数字をいじる前に現場を見てくれ」という営業部長の言葉は、半分当たっていました。数字で場所を1か所に絞ってから現場に聞いたので、部長も「それなら分かる」と即答できたのです。

全体の4ポイントの低下は、製品Aの新規だけで説明できます。この会社の商談は月100件、うち製品Aの新規が40件でした。その受注が月10件から6件に減ったので、全体の受注は20件から16件になります。製品Aの平均単価は200万円、粗利率は35%なので、粗利は月280万円減っています。

最初の仮説「新規顧客の受注率が落ちている」は半分当たっていました。落ちていたのは新規全体ではなく、製品Aの新規だけです。

粗くていいので、まず半日でひと回りする

4つの段階を完璧にやろうとすると重く感じます。粗くてよければ、上の例は半日で回せます。

時間帯やることこの例での中身
午前の前半聞き返して問いを立てる「来月の販促をどこに寄せるか」を決めるための問いにする
午前の後半6列だけ抜き出す営業支援システムから過去15か月分を出し、表計算ソフトに貼る
午後の前半推移・分解・比較を当てる製品Aの新規だけが落ちていると分かる。営業部長に競合の動きを聞く
午後の後半打ち手を1枚にまとめる打ち手と、効いたかどうかの判定方法を1枚にする

完璧な分析ではありません。しかし半日で、どこに手を打つかまで出せました。粗い1周を早く回し、足りないところを次に足していくほうが、最初から大作を目指すより早く打ち手に届きます。

読み違えると、打ち手がまるごと外れる

分析で怖いのは計算ミスよりも、数字は正しいのに読み方を誤ることです。しかも本人は、自信を持って間違えます。よく出会う落とし穴は次の4つです。

落とし穴ありがちな誤り防ぐ一言
相関と因果の取り違え一緒に動く=原因と決めつける「他に原因はないか」
平均の罠平均だけ見て、割れている実態を見落とす「平均の裏で何が起きているか」
外れ値極端な数件に全体が引っ張られる「その数件を除くとどうなるか」
母数の見落とし割合の分母を確かめない「これは何件中の話か」

一緒に動いても、原因とは限らない

「訪問回数が多い営業ほど受注が多い」というデータを見て、全員に訪問を増やさせると、たいてい空振りします。もともと受注しやすい有望な客に、営業が多く通っていただけ、ということがあるからです。訪問も受注も、客の有望さという別の要因に引っ張られています。

見えた関係早合点の結論疑うべき別の説明
訪問が多い営業ほど受注が多い訪問を増やせば受注が増える有望な客に多く通っているだけ
広告費が多い月ほど売上が高い広告を増やせば売れる繁忙期に広告も売上も増えるだけ
研修を受けた人ほど成績が良い研修が成績を上げるもともと優秀な人が研修に出ている
値引きした商談ほど受注している値引きすれば受注できる逆向き。受注が決まりかけた商談で、最後に値引きを出している

上の例の「価格を理由にした失注が多い月ほど受注率が低い」も、それだけでは原因と言えません。既存顧客では下がっていないという比較の結果と、競合が値下げした時期という外の情報がそろって、初めて裏づけになります。相関は見当をつける道具として使い、比較と分解で裏を取ってから打ち手に進みます。偶然の可能性も残るので、1か月だけの動きでは判断しません。

平均だけ見ると、二つに割れた実態を見落とす

「顧客の平均満足度は5点満点で3.5点」。まずまずに見えます。しかし中身が「5点が半分、2点が半分」なら、熱心なファンと強い不満が二つに割れている状態です。打ち手はまるで変わります。このとき中央値も3.5前後になるので、平均と中央値を並べても割れていることには気づけません。点数ごとの人数を棒グラフにすると、二つの山が見えます。平均を見たら、必ず一度は分布を棒グラフにします。

外れ値は、消さずに分けて見る

「今月の平均受注額が急に跳ね上がった」。喜ぶ前に大きい順に並べると、1件だけ桁違いの大型案件が平均を押し上げていた、ということがあります。外れ値を含めた平均と除いた平均を両方出し、結論が変わるかを確かめます。勝手に消してはいけません。大型案件なのか入力ミスなのかを確かめ、意味のある値なら分けて扱い、ミスなら直します。

割合には、必ず「何件中か」を添える

「新サービスの解約率は3%、旧サービスは5%」。新サービスが優秀に見えますが、新が30件中1件、旧が2,000件中100件なら、新の3%はたまたまかもしれません。

見せ方読み手の受け取り
成約率50%優秀そうに見える(実は2件中1件かもしれない)
成約率50%(2件中1件)まだ判断できないと分かる
成約率50%(200件中100件)安定して高いと分かる

上の例も同じです。製品Aの新規は月40件しかないので、1か月だけで見ると2件の差で受注率が5ポイント動きます。3か月続けて下がっていたので、たまたまのブレと見る理由が無くなり、変化として扱えました。会議資料では、パーセントの隣に実数を置きます。母数が小さいうちは、件数がたまるまで判断を保留します。

分析は「だから何をするか」で締める

「受注率が下がっています」で終わるとただの報告です。「受注が鈍い」への結論は、次の3行でした。

製品Aの新規向けに、導入後の運用費まで含めた比較表を入れた提案書を用意します。

値下げで追わないのは、粗利率35%が削れ、既存顧客の単価にも波及するからです。

来月から3か月の累計で、製品Aの新規の受注率が20%(120件中24件)前後まで戻るかで判定します。1か月目は途中経過として見ます。

打ち手と、その打ち手を選んだ理由と、効いたかを確かめる方法まで言えば、意思決定になります。

報告で終わる言い方打ち手になる言い方
受注率が下がっています製品Aの新規向けに、運用費まで含めた比較表を入れた提案書を用意します
解約が増えています利用が落ちた既存顧客に、先回りして連絡します
この広告は効きが悪いようですこの経路の予算を、商談につながっている経路に回します

右側はどれも、聞いた人がすぐ動けます。打ち手で締める癖がつくと、「で、どうするの」と返されなくなります。

本文の会社と数値は、説明のために置いた例です。

よくある質問(FAQ)

高度な統計やツールは必要ですか?

多くの実務分析は、比較・推移・分解・相関の4つと表計算ソフトで足ります。高度な統計は、それで答えが出ないときに検討します。まずは問いを立て、推移と分解を当てるところから始めます。

分析しても打ち手が出ません。

たいていは問いが漠然としているか、分解が足りていません。製品別・顧客区分別・期間別に1段ずつ割り、差が大きく出たところをさらに割ると、原因の場所が1か所に絞れます。出発点を「下したい判断」に置き直すのも効きます。

データが完璧にそろっていないと分析できませんか?

問いに必要な列だけあれば始められます。この記事の例では6列で、足りない情報は人に聞いて足しました。全部をそろえようとすると、いつまでも進みません。手元のデータで粗く1周し、足りないものを後から足します。

相関が見つかったら、すぐ打ち手にしてよいですか?

すぐにはしません。逆向きの関係ではないか、両方を動かす別の要因はないか、偶然ではないかの3つを確かめます。比較や分解で裏づけが取れてから、打ち手に進みます。

分析にどのくらい時間をかければよいですか?

まず半日から1日で粗く1周します。問いを立て、必要な列だけで推移と分解を見て、仮の結論まで出します。時間をかけるほど良い分析になるとは限りません。

グラフを10枚作っても「で、どうするの」と返される状態から抜けるために、いま抱えている依頼を1つ持ってきてください。問いへの聞き返しと、抜き出す列の決め方までなら、初回相談(30分・無料)で一緒に詰められます。