取引先の運送会社から運賃改定の相談を受けた席で、担当者にこう言われる。「御社の久喜のセンター、朝は毎回1時間以上待たされるんです」。反論したいのに、こちらには数字がない。何分待たせているのか、どの拠点が特にひどいのか、朝の何時に集中しているのか。現場に聞けば「まあ、混む日は混みますね」という答えしか返ってこない。積載率や物流コストは会計と出荷データからすぐ出せるのに、荷待ち時間だけは社内のどこを探しても見つからない。
これは荷主の物流部門でいま最も多い「データの空白」です。2024年問題でドライバーの拘束時間に上限がかかり、運送会社は待たせる荷主から順に便を絞り始めています。運賃交渉でも荷待ちは真っ先に論点になります。しかし荷待ち時間は、荷主が自社システムの中に持っていないことが最も多いデータです。だからこそ、最初の一手は「削減」ではなく「把握」になります。改正物流効率化法が荷待ち・荷役時間の把握を荷主の努力義務に定めたことで、運送会社や現場からこのデータを取りにいく根拠もできました。どこから、どうやって数字にするのか。順に手をつけていきましょう。荷主のKPIを法定報告と経営の言葉に翻訳するLogiLens STKは、この「持っていないデータ」の立ち上げから設計しています。
なぜ荷待ちだけ、社内を探しても出てこないのか
物流KPIは、出所で見ると性格がはっきり分かれます。売上高物流コスト比率やパレット化率、輸送CO2(トンキロ法)は、会計システムやWMS・出荷実績という荷主の手元のデータだけで作れます。ところが荷待ち時間と荷役時間は、記録している場所が荷主の外にあります。車両が何時に着いて、何時に荷役を始めたか。この時刻を持っているのは、バース予約システムを入れている現場か、デジタルタコグラフを積んだ運送会社の車両です。専属便や自社便でなければ、荷主のシステムには最初から入ってきません。
まず、自分の会社にとってどのKPIが「すぐ出る」で、どれが「取りに行く」なのかを仕分けます。下の表は保有者と入手のしやすさを整理したものです。荷待ちが最右列で△になっているのが、この記事の出発点です。
| KPI | 必要なデータ | 持っているのは誰か | 入手のしやすさ |
|---|---|---|---|
| 売上高物流コスト比率 | 支払運賃・保管料の仕訳、売上高 | 荷主(会計システム) | ◎ 確実にある。勘定科目の切り分けだけが論点 |
| パレット化率 | 出荷明細の荷姿(パレット/バラ) | 荷主(WMS・出荷指示) | ◎ WMSがあればある |
| 輸送CO2(トンキロ法) | 出荷ごとの重量×距離×車格 | 荷主(出荷実績+配車情報) | ◎〜○ 省エネ法の特定荷主は算定基盤を既に持つことが多い |
| 積載率 | 便ごとの積載重量÷最大積載量 | 荷主(TMS・配車表)+運送会社(車格) | ○ 初期は「車格×台数からの推計値」と明示して出す |
| 平均荷待ち時間 | 車両の到着・荷役開始時刻 | 現場(バース予約)or 運送会社(デジタコ) | △ 荷主が持っていないことが最も多い。改正物効法の努力義務が取得の根拠 |
| 平均荷役時間 | 荷役の開始・終了時刻 | 現場(バース予約システム) | △ 荷待ちと同じ。ヒートマップは予約システム導入後の姿 |
この表の使い方はひとつです。◎の3つ(物流コスト比率・パレット化率・CO2)は今月のデータで法定報告の土台がもう組めます。荷待ちの数字が揃うのを待つ必要はありません。荷待ちは別立てで、運送会社と現場を巻き込んで立ち上げるプロジェクトとして扱います。「全部揃ってから」と考えると、いつまでも始まりません。
データが無い状態から、どう段階的に取りにいくか
バース予約システムがあれば理想ですが、多くの拠点にはまだありません。ない前提で始めます。実は多くの現場が、守衛所や検品場で「入退場記録」を紙で付けています。到着時刻とトラックの車番くらいは書いてある。これがそのまま荷待ちデータの原石です。段階を踏んで精度を上げていきます。
| 段階 | やること | 取れる荷待ちデータ | 着手のハードル |
|---|---|---|---|
| 第1段階:紙の記録を集める | 守衛所・検品場の入退場記録の様式を1つに揃え、到着時刻・荷役開始時刻・車番・運送会社を書く欄を追加 | 拠点ごとの手集計での平均荷待ち(週次・月次) | 低い。運用ルールを決めるだけ。翌週から始まる |
| 第2段階:CSVにして集約 | 紙をスプレッドシートに転記、または運送会社に月次報告CSVを依頼。拠点×キャリア×時間帯で集計できる形にする | キャリア別・時間帯別の平均荷待ち。どのレーンが重いかが見える | 中。転記の手間か、運送会社への依頼が要る |
| 第3段階:仕組みで自動取得 | バース予約システム、または運送会社のデジタコ連携で到着・荷役時刻を自動記録 | 日次のバース稼働ヒートマップ(時間帯×曜日)まで到達 | 高い。投資判断が必要。第1〜2段階の数字が稟議の材料になる |
順番に意味があります。第3段階のシステム投資をいきなり稟議に出すと「その効果はいくらか」で止まります。しかし第1段階の紙集計で「関東の拠点は朝の平均荷待ちが84分」という数字が1枚出れば、その一枚が投資判断の材料になります。まず粗くても数字を出す。精度は後から上げる。この順序を崩さないことが、動き出すコツです。運送会社への月次CSV依頼も、改正物効法が荷待ち把握を荷主の努力義務にしたことで「法対応のための協力依頼」として切り出しやすくなりました。
荷待ち84分が意味するもの:返せる時間で数える
数字が1枚出ると、その大きさに驚くことになります。中堅メーカーの標準的な規模で試算してみます。前提は、1日の入荷・出荷でおよそ110台のトラックが動く事業所(年間取扱量11.2万トン、250営業日、10t車換算)です。この拠点群の平均荷待ちが84分で、これを目標の60分まで縮められたとします。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 1台あたりの短縮 | 84分 − 60分 | 24分 |
| 1日あたりの短縮 | 24分 × 110台 | 2,640分 = 44時間/日 |
| 年間の短縮 | 44時間 × 250営業日 | 約1.1万時間/年のドライバー拘束 |
| 待機時間料の相場換算 | 1.1万時間を30分1,500円の相場で換算 | 約3,300万円相当 |
ここで大事なのは、この約3,300万円を「削減額」と読まないことです。荷待ちを縮めても、その金額がそのまま荷主の口座に振り込まれるわけではありません。正しくは「返せる時間」です。ドライバーに年1.1万時間、金額にして約3,300万円相当の拘束を返せる、という読み方をします。この数字が効いてくる場面は3つあります。
ひとつめは運賃改定交渉です。2024年問題で運送会社が値上げを求めてくるとき、「御社は待たせている」は相手の最大の材料になります。逆に「うちは84分から60分に縮めた、年1.1万時間返した」と数字で示せれば、交渉のテーブルを対等に保てます。ふたつめは待機時間料そのものです。相場で請求される分が減れば、これは荷主の財布に直接返ります。みっつめは荷主勧告制度・トラックGメンへの対応です。悪質な長時間の荷待ちは行政指導や企業名公表の対象になりえます。数字で現状を把握し改善の跡を残しておくことは、レピュテーションを守る備えになります。恐怖で急かす話ではなく、静かに数字を持っておく、という話です。
可視化の第一歩は「入退場ログの最小4項目」から
では明日、現場に何を頼めばいいのか。凝ったシステムは要りません。バース入退場ログとして記録すべき最小項目は、次の4つ+補助です。これだけあれば、荷待ちも荷役も計算できます。荷待ち=荷役開始−到着、荷役=終了−荷役開始、という引き算に必要な時刻だけを押さえます。
| 記録項目 | 例 | 何に使うか |
|---|---|---|
| 到着時刻(arrival_at) | 08:42 | 荷待ちの起点。ゲート通過か構内到着で定義を統一 |
| 荷役開始時刻(handling_start_at) | 10:05 | 荷待ち=この時刻−到着時刻 |
| 荷役終了時刻(handling_end_at) | 10:58 | 荷役時間=終了−開始 |
| 運送会社(carrier_id) | C001 | キャリア別の荷待ち比較。交渉の相手ごとに見る |
| 車格(vehicle_class)/拠点・バース番号 | 10t/kanto-1・3番 | 車格別・バース別の集計。ヒートマップの軸 |
最初につまずくのは「到着」の定義です。ゲートを通った時刻なのか、構内の待機列に並んだ時刻なのか、バースに着けた時刻なのか。ここを拠点ごとにバラバラに書くと、あとで数字が比べられなくなります。到着=ゲート通過で全拠点統一、と最初に決めておきます。時刻は分単位で十分です。秒や正確性を求めて記入が続かないより、粗くても毎日埋まる方がずっと役に立ちます。1〜2か月ぶんが溜まれば、拠点別・キャリア別・時間帯別の平均荷待ちが出て、朝8〜10時への集中も見えてきます。そこから「どの拠点の、どの時間帯の、どのキャリアから手をつけるか」を決めれば、改善の第一手が具体になります。
LogiLens STKは、この入退場ログと出荷・配車・会計のデータをつなぎ、荷待ちや積載率を拠点別に並べて、そのまま改正物流効率化法の定期報告や中長期計画の様式に落とすところまでを設計します。紙の集計から始めて、運送会社の月次CSV、最後にバース予約システム連携へと、段階的に精度を上げていく前提で組んでいます。
よくある質問(FAQ)
バース予約システムを入れないと荷待ちは可視化できないのですか
いいえ。多くの現場が守衛所や検品場で紙の入退場記録を付けており、そこに到着時刻と荷役開始時刻の欄を足すだけで、週次・月次の平均荷待ちは手集計で出せます。まず紙の記録をスプレッドシートにまとめ、粗くても数字を1枚作るのが最初です。予約システムの導入は、その数字を投資判断の材料にしてから第3段階として検討すれば十分です。順序を逆にすると「効果がいくらか分からない」で止まりがちです。
荷待ちデータを運送会社に出してもらう根拠はありますか
改正物流効率化法が、荷待ち時間・荷役時間の把握を荷主の努力義務として位置づけました。これにより、デジタルタコグラフの到着・荷役時刻や月次報告CSVの提供を「法対応のための協力依頼」として運送会社に切り出しやすくなりました。専属便・自社便以外では荷主のシステムに時刻データが入ってこないため、この依頼は現実的な取得ルートになります。依頼の際は、集めた数字を運賃交渉や便の維持にどう使うかを共有すると、運送会社側の協力も得やすくなります。
荷待ちを縮めると、試算にあった約3,300万円がそのまま利益になりますか
なりません。約3,300万円相当は「ドライバーに返せる年1.1万時間の拘束を待機時間料の相場で金額換算した目安」であって、荷主の口座に入る削減額ではありません。荷主の財布に直接返るのは待機時間料の請求分と、運賃改定交渉での抑制効果です。それに加えて、荷主勧告制度・トラックGメンへの対応というレピュテーション面の備えになります。金額は「交渉と現状把握の材料」として使うのが正しい読み方で、前提(1日110台・24分短縮・250営業日・30分1,500円)を必ず併記してお使いください。
荷待ちの数字が揃うまで、法定報告の準備は始められませんか
始められます。改正物流効率化法の定期報告や中長期計画の土台になる物流コスト比率・パレット化率・輸送CO2(トンキロ法)は、会計システムと出荷実績という荷主の手元のデータだけで今月から組めます。荷待ち・荷役は取得に時間がかかるため別立てで進め、揃った拠点から順に加えていく形が現実的です。「全部揃ってから」ではなく「揃うものから」始めるのが、初回提出期限に間に合わせるコツです。
まず1枚、荷待ちの数字を出すところから
荷待ちは、社内を探しても見つからないからこそ、最初に手をつける価値があります。紙の入退場記録をどう1つの様式に揃え、どの4項目を書き、どこから運送会社に依頼するか。この立ち上げの設計だけでも、壁打ちのつもりでご相談ください。「うちの拠点は今、何分待たせているのか」を1枚の数字にするところから、LogiLens STKは一緒に組み立てます。初回相談(30分・無料)で、いまあるデータと紙の記録を見ながら、最初の一手を具体にするところまで持っていけます。