大口の取引先から届いた一通のメールに、物流部門の手が止まる。「サプライチェーン全体のCO2排出量について、貴社分の輸送排出量をご提出ください」。CDPの回答やサプライヤー評価の一環で、Scope3のカテゴリ4・9にあたる数字を求められている。去年もあった。あのときは配車表と運賃明細を5拠点からかき集め、Excelで重量と距離を手打ちし、係数を掛け、なんとか一つの数字をひねり出した。担当者はもう異動している。今年また、ゼロから同じ作業が始まろうとしている。
輸送CO2の算定は、いちど「計算のしくみ」を正しく組んでしまえば、毎年ゼロから手作業でやり直すものではありません。荷主が普段から持っている出荷実績と配車情報を使い、トンキロ法という決められた方法で組み立てておけば、省エネ法の定期報告にも、取引先へのScope3提出にも、同じ土台から数字を出せます。ここでは、その土台をどう作るかを、実際の計算例まで含めて具体的に見ていきます。自社の算定体制をどこから整えるか迷っている段階でしたら、LogiLens STK の初回相談で現状のデータを一緒に棚卸しするところから始められます。
そもそもトンキロ法とは何を計算しているのか
輸送CO2の算定方法は、大きく「燃費法」と「トンキロ法」に分かれます。燃費法は、トラックが実際に使った軽油の量に排出係数を掛けるやり方で、正確ですが、荷主の手元に燃料データがありません。専属便や自社便でない限り、運送会社から燃料使用量の提供を受ける必要があります。
一方のトンキロ法は、「どれだけの重さの荷物を、どれだけの距離運んだか」から排出量を推計します。式にすると、貨物の重量(トン)×輸送距離(キロメートル)で「トンキロ」という輸送量を出し、そこに車格や積載率に応じた原単位と燃料の排出係数を掛けます。荷主が持っている出荷実績と配車情報だけで組める点が決定的で、多くの荷主にとってこれが現実解になります。トンキロ法の中でも、車格や積載率を細かく反映する「改良トンキロ法」が、精度と実務負担のバランスから広く使われています。
| 算定方法 | 計算の考え方 | 必要なデータ | データの保有者 | 荷主にとっての現実性 |
|---|---|---|---|---|
| 改良トンキロ法 | トンキロ × 車格・積載率別の原単位 × 排出係数 | 出荷ごとの重量・輸送距離・車格 | 荷主(出荷実績+配車情報) | 自社データで組める。精度と負担のバランスが良く、実務の主流 |
| 従来トンキロ法 | トンキロ × 一律の原単位 | 出荷ごとの重量・輸送距離 | 荷主 | 最も簡易。車格を問わないぶん精度は粗い |
| 燃費法 | 実際の燃料使用量 × 排出係数 | 車両ごとの燃料使用量 | 運送会社 | 最も正確だが荷主に燃料データが無い。提供依頼の仕組みが要る |
デモ版のダッシュボードで算定方式を切り替えられるようにしているのは、この事情を映したものです。将来的に運送会社の燃料データが揃えば燃費法に寄せていける一方、まず今ある自社データで報告の土台を作るなら改良トンキロ法から入る、という段階を想定しています。
荷主が持っているデータで、どう計算を組むか
改良トンキロ法に必要なのは、突き詰めると三つの要素です。出荷ごとの「重量」、届け先までの「距離」、運んだトラックの「車格」。このうち重量は出荷実績(WMSや基幹システムの出荷明細)にあり、距離は届け先の住所から算定でき、車格は配車表やTMSにあります。荷主の社内を探せば、要素はほぼ揃っているのが普通です。
問題は、それらが別々のシステムにばらばらに存在し、拠点ごとに書式も違うことです。年に一度の報告のたびに人手で名寄せしていると、担当者の異動でノウハウが途切れ、毎年ふりだしに戻ります。ここを「出荷実績+配車実績」を突き合わせる一つの計算ロジックとして固定してしまえば、翌年からは同じ仕組みにデータを流すだけになります。
出荷1件から排出量を出す計算例
実際に一つ通してみます。ある拠点から届け先へ、貨物4トンを距離100kmで運んだ1便を考えます。改良トンキロ法は次の順で計算します。
| ステップ | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 1. 輸送トンキロを出す | 4トン × 100km | 400 トンキロ |
| 2. 燃料使用量を推計 | 400 トンキロ × 原単位 約0.04 L/トンキロ(車格・積載率別の公表値の一例) | 約16 L |
| 3. CO2に換算 | 16 L × 軽油の排出係数 約2.58 kg-CO2/L | 約41 kg-CO2e |
この1便で約41kg-CO2eです。原単位は車格(最大積載量の区分)と積載率で変わり、公表されている表から車ごとに引きます。ここでは考え方を見せるために約0.04 L/トンキロを置きましたが、実務では便ごとの車格に応じて値が動きます。排出係数も燃料種別ごとに定められた値を使います。あとはこの計算を全出荷に対して回し、月別・拠点別・キャリア別に合計するだけです。1便では小さな数字でも、月に数千便を積み上げれば、報告に載る規模の総量になります。デモの主人公企業では月あたり輸送CO2が約1,284 t-CO2e(トンキロ法)という水準で、これは一件一件の積み上げの結果です。
省エネ法とScope3は、同じ計算の「組み替え」で足りる
ここが実務でいちばん効くところです。省エネ法の特定荷主報告も、取引先が求めるScope3も、輸送CO2という同じ数字を、切り口を変えて出しているだけです。土台の計算が一つあれば、あとは集計の粒度と範囲を組み替えます。
省エネ法では、年間の輸送量が一定規模(一般に3,000万トンキロが目安とされます)を超える荷主が特定荷主に該当し、以前から毎年度の報告が求められてきました。この基準を満たす企業は、トンキロ法の算定基盤をすでに持っていることが多く、Scope3対応はゼロからの構築ではなく既存基盤の応用として進められます。Scope3側は、自社が費用を負担する調達・仕入れ物流がカテゴリ4(上流の輸送・配送)、販売後の配送などがカテゴリ9(下流の輸送・配送)にあたる、と整理されるのが一般的です。
| 報告の枠組み | 対象になる輸送 | 主な目的・提出先 | 集計の粒度 |
|---|---|---|---|
| 省エネ法(特定荷主) | 自社が委託する貨物輸送(年間トンキロが基準超) | 法定報告(行政)。年度単位の定期報告 | 年間の全社合計が基本 |
| Scope3 カテゴリ4 | 上流(調達・仕入れ)の輸送・配送 | 取引先・CDP・自社のサステナビリティ開示 | 年間。取引先別・製品別の内訳を求められることも |
| Scope3 カテゴリ9 | 下流(販売後)の輸送・配送 | 同上 | 年間。販売チャネル別の内訳を求められることも |
報告先も粒度も違いますが、大元は「出荷1件ごとのトンキロと排出量」です。ここを日次・便単位で持っておけば、省エネ法向けには年間合計へ丸め、Scope3向けには上流・下流やカテゴリで振り分け、社内管理向けには月次・拠点別で見る、という組み替えが同じデータからできます。逆に、報告のたびに集計済みの数字だけを人手で作っていると、粒度を変えた瞬間にまた手作業に戻ります。明細レベルで保持しておくことが、あとで効いてきます。
提出できないことが、取引そのものを揺らす
算定を後回しにしにくくなっている背景には、規制だけでなく取引先の要請があります。大手の取引先がサプライヤー評価にScope3やCDP回答の提出を組み込む動きが広がり、対応できないことが取引条件の見直しや選定除外につながりかねない状況になりつつあります。増収の話ではなく、いま持っている取引を「失わない」ための備えという性格が強い領域です。
規模感を試算例で置いてみます。仮に、Scope3提出を評価項目にしている取引先との取引が年商10億円分あり、その粗利率を25%とすると、守っているのは粗利2.5億円分の取引ということになります。売上の額面ではなく、この粗利で捉えるのが実態に近い見方です。算定体制を整える負担と、この規模の取引を安定して継続できることを並べれば、社内で稟議を通すときの説明もしやすくなります。これはあくまで前提を置いた試算例で、実際の金額は取引構成によって変わります。
大事なのは、この数字を脅し文句にしないことです。取引先が求めているのは、正しい方法で継続的に出せる算定体制であって、単年度の見栄えのいい数値ではありません。トンキロ法で明細から積み上げ、算定の根拠を説明できる状態にしておくことが、そのまま取引先からの信頼になります。
よくある質問(FAQ)
トンキロ法と燃費法は、どちらで算定すればよいですか
荷主が自社データだけで始めるなら、改良トンキロ法が現実的です。燃費法は実際の燃料使用量を使うため精度は高いものの、そのデータは運送会社が持っており、専属便や自社便でなければ提供を受ける仕組みづくりが必要になります。まずトンキロ法で報告の土台を作り、運送会社の協力が得られる部分から燃費法に寄せていく、という順序が無理がありません。
省エネ法の報告をしていれば、Scope3にもそのまま使えますか
算定の土台は共通で使えます。ただし対象範囲と集計の粒度が異なります。省エネ法は自社が委託する輸送の年間合計が中心である一方、Scope3は上流(カテゴリ4)・下流(カテゴリ9)に分け、取引先や製品ごとの内訳を求められることもあります。出荷1件ごとの明細を持っておけば、同じデータから両方の切り口で出し分けられます。
算定を始めるのに、最低限どんなデータが要りますか
出発点は、出荷ごとの重量・届け先・車格が分かる出荷実績と配車情報です。多くの荷主はWMSや基幹システム、配車表の中にこれらを持っています。まずは出荷実績と配車実績を突き合わせられれば、トンキロ法での輸送CO2算定は始められます。荷姿や勘定科目の切り分けなど整理が要る箇所は、最初のヒアリングで洗い出すのが確実です。
毎年の報告作業を、どれくらい軽くできますか
効果は前提によりますが、5拠点分のデータ収集・名寄せ・算定・様式転記を人手で回している場合、その大半は計算ロジックを固定することで自動化の余地があります。浮いた時間は人員削減ではなく、報告内容の精査や取引先への説明準備といった、人が判断すべき作業に振り向けられます。実際の削減幅は現状の作業体制によって変わるため、初回相談で現状の工数を棚卸しして試算するのが確実です。
算定の土台づくりから相談する
毎年ゼロから手作業で輸送CO2を出し直している状態から抜け出す最初の一歩は、いま社内にあるデータでトンキロ法の計算がどこまで組めるかを見極めることです。LogiLens STK では、出荷実績と配車情報の棚卸しから、省エネ法とScope3を同じ土台で回すしくみづくりまでを支援します。取引先からの提出要請にどう備えるか、自社のデータで何がすぐ出せて何が足りないのかを、初回相談で一緒に整理するところから始められます。