生成AIの法人向けライセンスを1,000人分契約して半年がたちました。管理画面を開くと、この1週間に一度でも使った人は200人です。経営会議では「年5,000万円以上払っているのに、どうなっているんだ」と聞かれます。情シスの兼任担当からは「使い方の相談が週20件を超えて、本業が回らない」と言われ、相談への返事は5営業日遅れています。研修はもう3回やりました。4回目を企画しても、同じ結果になる気がしています。
使われない理由は、研修の回数や社員のやる気ではありません。たいていは、業務の側にAIを呼ぶ場面が決まっていないか、AIから業務のデータが見えないか、相談を受ける体制が1人に集中しているかのどれかです。原因が違えば打ち手も違うので、先に切り分けます。
使われない原因は5つに分かれる
| 原因 | 現場で起きていること | どこを見れば分かるか |
|---|---|---|
| 業務の手順に、AIを呼ぶ場面が無い | 「使ってください」と言われたが、仕事のどの瞬間に使うのか分からない | 業務の手順書に、AIの出番が1つも書かれていない |
| AIから業務のデータが見えない | 商談の情報を読ませたいのに、権限が無くて読めない。結局、議事録の要約にしか使えない | 情シスに、AIが読めるデータの範囲を聞く |
| 指示の出し方が身についていない | 3回試して思ったとおりにならず、それ以来使っていない | 現場の5〜10人に、最後に使った日と、やめた理由を聞く |
| 1回の誤答で信用をなくした | 経理や法務で一度間違えられ、「AIは信用できない」が部署の空気になった | 同じく聞き取りで、やめたきっかけを聞く |
| 相談を受ける人が1人しかいない | 相談が情シスの兼任1人に集中し、返事を待つうちに諦める | 情シスへの相談件数と、返事までの日数を数える |
どれか1つだけ、ということはまずありません。ただ、いちばん効いている原因から順に手を打つと、残りもほどけやすくなります。
「使われていない」は、3つの数字に分けて見る
「200人しか使っていない」だけでは、何を直せばいいか分かりません。数字を3つに分けます。
| 数字 | 問い | この会社の例 |
|---|---|---|
| 使っている人の割合 | そもそも使われているか | この1週間に一度でも使った人は1,000人中200人(20%)。営業は40%、経理は5% |
| 何に使われているか | 狙った業務に使われているか | 指示の中身を200件抜き出して分けると、7割が議事録の要約。狙っていた提案書の下書きは5% |
| 業務がどう変わったか | 時間や品質に表れているか | 営業10人に聞くと、議事録で週1時間ほど減ったが、提案書づくりの時間は変わっていない |
1つ目だけを見て「2割使われているから、まずまず」と判断するのが、いちばんよくある間違いです。2つ目を見ると、使われているのはほとんど議事録で、狙っていた提案書には届いていないことが分かります。3つ目まで並べて初めて、どこを直せばいいかが見えます。
2つ目の数字は、指示の中身を記録できる契約になっているかを情シスに確かめ、読む目的を社員に前もって知らせたうえで、指示を月200件ほど抜き出し、6つ程度に分けて数えます。分け方は「調べもの」「文書の下書き」「議事録や要約」「判断の補助(契約書の確認など)」「顧客対応」「表計算や集計」くらいで足ります。「その他」が3割を超えるなら、分け方を見直します。
原因の切り分けは、2週間・3つの方法でできる
| 方法 | やること | 分かること |
|---|---|---|
| ログを見る | 直近60〜90日の利用ログを部門別・用途別に数える | どの部門で止まり、何に偏っているか |
| 聞く | 現場の5〜10人に各30分、情シスと推進担当、経営の後ろ盾になる役員に各30分 | やめた理由、相談の詰まり、経営が期待している数字 |
| 業務の手順を書き出す | AIを使わせたい業務を1つ選び、手順を1行ずつ書く | AIを呼ぶ場面がどこにあるべきか |
現場への聞き取りは、上司が同席しないほうが本音が出ます。「どう使っていますか」より「最後に使ったのはいつで、そのあと使わなくなったのはなぜですか」と聞くと、具体的な理由が返ってきます。
原因ごとの立て直し方
AIを呼ぶ場面を、業務の手順書に書き込む
研修で使い方を教えても、仕事のどの瞬間に使うかは決まりません。業務の手順を1行ずつ書き出し、AIを呼ぶ場面を3〜5か所決めて、そこで使う指示文を添えます。
| 業務の手順(営業の商談準備) | AIを呼ぶ場面 | 渡す指示文の例 |
|---|---|---|
| 前日:商談の目的を確認する | — | — |
| 前日:相手の会社の近況を調べる | ここ | 相手のIR資料と最近の記事を貼り付け、「この資料から、直近1年の変化を5行にまとめて」 |
| 前日:過去のやり取りを振り返る | ここ | 「この顧客との過去3回の議事録から、未解決の宿題と相手の懸念を挙げて」 |
| 当日:商談する | — | — |
| 当日:議事録を作る | ここ | 議事録要約のひな形 |
使いどころの見極め方と、最初の業務を2週間で試す進め方は、生成AIの使いどころと最初の一歩に書いています。
AIから見えるデータの範囲を、情シスと決める
営業が「商談データを読ませたい」と言っても、権限が無ければAIは何も見えません。結果として、権限の要らない議事録の要約ばかりに使われます。この会社で7割が議事録だったのは、これが原因でした。
情シスが権限を広げたがらないのは、漏えいが怖いからです。そこで「AIから読めるのは、自分が担当する商談だけ」と範囲を絞り、誰がいつ何を読ませたかの記録を取る設定にして合意します。全部か無しかで話すと、たいてい無しで終わります。
1回の誤答で離れた部署には、失敗例の一覧を先に渡す
経理や法務のように正確さが求められる部署では、一度の誤答で「使えない」が部署の空気になります。「AIは間違える前提で、この3種類の間違いに気をつける」という失敗例の一覧を先に渡しておくと、誤答に出会っても離れにくくなります。たとえば「数字を計算させない」「出典のない法令の説明は使わない」「社外に出す前に人が見る」です。
研修の組み立て方そのものを見直すなら、「使い方研修3回」で終わる企業の共通点と、研修の設計を組み直す方法を参照してください。
相談の受け手を、3つの層に分ける
相談が情シスの兼任1人に集中している限り、他の手を打っても返事待ちで止まります。受け手を3つに分けます。
| 層 | 担う人 | 受ける相談 |
|---|---|---|
| 1つ目 | 各部門の推進役1人(本業の1〜2割、週4〜8時間) | 指示の出し方、業務での使い方、手順書の案内 |
| 2つ目 | 推進役どうしの集まり(月2回、1時間) | 部門をまたぐ共通の悩み、うまくいった使い方の共有 |
| 3つ目 | 情シスの担当 | 権限の変更、システムとのつなぎ込み、ベンダーとのやり取り |
推進役に選ぶのは、AIに詳しい若手ではなく、その部門の業務をよく知っていて、周りから自然に相談される中堅です。若手は業務の理解が浅く、部門の人から相談されにくいからです。推進役の仕事は評価の項目に書き、本業の量をマネジャーが減らします。書かれていない役割は、本業に押し出されて必ず止まります。
時期によって、出てくる兆しが変わる
| 導入からの時期 | よく出る兆し | この時期に打つ手 |
|---|---|---|
| 1か月目 | 使い方の質問が情シスに集中する | 部門ごとに推進役を決め、相談の受け手を分ける |
| 2か月目 | 使う人の割合が頭打ちになり、部門の差が開く | 伸びない部門で、使わない理由を聞く |
| 3か月目 | 使う人の割合は落ち着いて見えるが、中身が議事録に偏る | 指示の中身を分けて数え、業務の手順書にAIの場面を書き込む |
| 4〜6か月目 | 推進担当が疲れ、手順書の更新が止まる | 対象を1〜2部門に絞り直し、うまくいった例を作り直す |
| 半年〜1年 | 予算の時期に「続けるのか、やめるのか」を問われる | 全社の看板をいったん下ろし、絞った部門で立て直す計画を出す |
3か月目の偏りは、使う人の割合だけを見ていると見落とします。ここで手を打てないと、4か月目以降の立て直しは重くなります。続けるかやめるかを問われたときの判断の基準は、生成AI 継続 or 撤退の判断基準に書いています。
立て直しの半年計画
| 月 | やること | 終わったと言える目安 |
|---|---|---|
| 1か月目 | 部門ごとの推進役を決めて相談の受け手を分け、ログ・聞き取り・手順書で原因を切り分ける | 情シスへの相談が減り始め、効いている原因が2つ分かっている |
| 2か月目 | AIから見えるデータの範囲を情シスと決め、設定を変える | 対象部門で、必要な業務データがAIから読める |
| 3か月目 | 対象部門の業務手順書に、AIを呼ぶ場面と指示文を書き込む | 手順書の初版ができている |
| 4か月目 | 推進役の仕事を評価の項目に書き込む | 月2回の推進役の集まりが定着している |
| 5か月目 | 3つの数字を毎月1枚にまとめて経営に出す | 狙った業務に使われる割合が、1か月目より上がっている |
| 6か月目 | 次に広げる部門を決める | 対象部門の推進役が、手順書を自分で直せている |
最初から全部門を狙わず、原因の分かった1〜3部門で「使われる状態」を作ってから広げます。全部門を同時に狙うと、どこも中途半端に終わります。
半年のあいだもライセンスの支払いは続きます。1,000人分を1人月4,500円で契約していれば年5,400万円で、使っていない800人分に年4,320万円を払っている計算です。使われていない部門の契約は、更新のときに減らす候補にします。金額はいずれも説明のための例です。
よくある質問(FAQ)
研修をもう一度やれば、使われるようになりますか?
研修だけでは変わらないことがほとんどです。仕事のどの瞬間にAIを使うかが手順書に書かれていなければ、研修で覚えた使い方は使う場面がないまま忘れられます。先に業務の手順にAIの出番を書き込み、研修はその使い方を練習する場にします。
使っている人の割合は、どのくらいあれば成功ですか?
割合だけで成功かどうかは決まりません。2割の人が狙った業務に使っているほうが、5割の人が議事録の要約だけに使っているより成果に近いこともあります。使っている人の割合、何に使われているか、業務がどう変わったかの3つを、前の月や部門どうしで比べて見ます。
推進役は、どんな人を選べばよいですか?
その部門の業務をよく知っていて、周りから自然に相談される中堅を選びます。AIに詳しいことより、業務を知っていることのほうが効きます。本業の1〜2割を推進役の仕事に充て、評価の項目に書き込みます。
情シスが、AIに業務データを読ませることに反対しています。
範囲を絞って話します。「自分が担当する商談のデータだけを読める」「誰がいつ何を読ませたかを記録する」と条件をつければ、全部を開く話より合意しやすくなります。漏えいの心配は、会社契約で入力内容が学習に使われない設定であることも合わせて伝えます。
半年たっても使われない場合は、やめたほうがよいですか?
全社で一斉にやめる前に、対象を1〜3部門に絞って立て直す計画を出します。それでも狙った業務で時間や品質が変わらないなら、その部門の契約は減らします。続けるかどうかを、使われている部門と使われていない部門で分けて決めると、全部を失わずに済みます。
ライセンスは配ったのに使われているのは2割、相談は情シスの1人に集中している。その状態から、効いている原因を2つに絞るところまでなら、初回相談(30分・無料)で一緒に見立てられます。