行政からの通知で自社が「特定事業者」に指定されたと知ったのが春。初回の定期報告の期限は10月末で、もう三か月を切っている。ところが、報告に要る数字がどこにも揃っていない。積載率は配車表を拠点ごとにExcelで持っていて、様式も担当者もバラバラ。荷待ち時間にいたっては誰も測っていない。CO2は省エネ法の担当が年に一度だけ触るファイルの中で、月次にも拠点別にも割れていない。物流部門長のあなたは、5拠点の現場に「至急、去年の実績を出してほしい」とメールを打ちながら、これを毎年やるのかと気が重くなる。
数字が5拠点に散っているのは、担当者の能力の問題ではありません。これまで物流データを「経営と法定報告の言葉」で持つ必要がなかっただけです。改正物流効率化法(2026年4月全面施行)が求めるのは、中長期計画・毎年度の定期報告・CLO(物流統括管理者)の選任という三点で、いずれもその散らばった数字を土台にします。だからこそ、何を自社データだけで作れて、何を運送会社や現場から取りにいく必要があるのか。その切り分けを先につけておくと、初年度の負担はぐっと軽くなります。データの集め方から報告の作り方まで、実務の順番で見ていきます。
そもそも荷主に課された三つの義務は何か
改正物流効率化法は、年間の貨物取扱量が一定規模(荷主でおおむね9万トン)を超える企業を「特定事業者」に指定し、三つの義務を課します。混乱しやすいのは、この三つが別々の締め切りと担当を持つことです。まず全体像を一枚で押さえましょう。
| 義務 | 中身 | 頻度・期限の考え方 | 誰が主担当になるか |
|---|---|---|---|
| 中長期計画の提出 | 積載率や荷待ち時間などの改善目標と、そこへ到達する取り組みを計画として示す | 計画期間を定めて提出。以降は毎年度の報告で進捗を追う | CLOの統括のもと、物流部門が起案 |
| 定期報告 | 前年度の実績(積載率・荷待ち・荷役・CO2・物流コスト等)と、計画に対する進み具合を報告 | 毎年度。初回は施行後の指定に応じた期限(本記事の例では10月末) | 物流部門+経理(コスト・CO2の元データ) |
| CLO(物流統括管理者)の選任 | 物流の効率化を全社で統括する責任者を、経営に関与する立場から選任する | 選任し、体制として継続。役員クラスが想定される | 経営(役員から選任) |
CLOは「肩書きを一つ増やす」話に見えて、実務上はここが要になります。中長期計画も定期報告も、複数拠点と経理・購買・現場をまたいで数字を集めなければ作れません。部門横断で号令をかけ、拠点間の様式を揃え、経営会議に物流KPIを載せる役割を担う人がいないと、毎年10月に同じ火事が起きます。CLOを置いたら最初にやるべきは、次に述べる「必要データの棚卸し」です。
必要な数字は「自社で作れる半分」と「取りにいく半分」に分かれる
報告に要るKPIを前に「うちにはデータがない」と感じる担当者は多いのですが、正確には半分はあります。物流コスト比率・パレット化率・CO2・積載率の推計は、会計システムとWMS、つまり自社の中にある数字だけで組み立てられます。取りにいく必要があるのは、荷待ち・荷役・実積載など、運送会社や荷役現場の側にあるデータです。この線引きをKPIごとに見ておきます。
| KPI | データの持ち主 | 入手のリアリティ |
|---|---|---|
| 売上高物流コスト比率 | 荷主(会計システム) | ◎ 支払運賃・保管料の仕訳と売上高から算出。勘定科目の切り分けだけが論点 |
| パレット化率 | 荷主(WMS・出荷指示) | ◎ 出荷明細の荷姿(パレット/バラ)から。記録がなければ運用改善から |
| 輸送CO2(トンキロ法) | 荷主(出荷実績+配車情報) | ◎〜○ 省エネ法の特定荷主なら算定基盤を既に持つことが多い。月次・拠点別に組み替えるのが実作業 |
| 積載率 | 荷主(TMS/配車表)+運送会社(車格) | ○ 配車表があれば推計可能。実積載は運送会社側にしかなく、初期は「車格×台数からの推計値」と明示して出すのが誠実 |
| 平均荷待ち時間 | 現場(バース予約)or 運送会社(デジタコ) | △ 荷主が持たないことが最も多い。改正法が把握を努力義務化したため、運送会社への提供依頼の根拠はできた |
| 平均荷役時間 | 現場(バース予約システム) | △ 同上。バース入退場ログの整備が前提 |
ここで大事なのは、全部が揃うのを待たないことです。荷待ち系のデータが未整備でも、報告の土台になるCO2・コスト・パレット化率は初月から出せます。荷待ち・荷役は改正法の努力義務を根拠に運送会社と一緒に整えていく。この段階を三つのフェーズに分けると、初回報告に間に合わせる現実的な段取りが見えてきます。
| フェーズ | 使うデータ | 出せるKPI |
|---|---|---|
| Phase 1(自社データのみ・初月) | 出荷実績+物流費仕訳+拠点/運送会社マスタ | 物流コスト比率・パレット化率・CO2(トンキロ法)・積載率(推計値) |
| Phase 2(運送会社の協力) | +配車・運行実績、運送会社の月次報告CSV | 積載率(実績)・キャリア別分析・荷待ち(月次サマリ) |
| Phase 3(現場の仕組み化) | +バース入退場ログ(バース予約 or デジタコ連携) | 荷待ち・荷役の日次把握、バース稼働の可視化 |
初回の定期報告はPhase 1で十分に成立します。積載率を推計値として出し、荷待ちは「現在整備中、次年度から月次で把握」と正直に書けばいい。むしろ最初から実測を装って精緻な数字を並べるほうが、翌年に運用が追いつかず破綻します。まずPhase 1で骨格を作り、翌年度に向けてPhase 2・3を運送会社との交渉材料に乗せていく順番が、負担も信頼性も両立します。
報告書は「計画値と実績の対比」で組み立てる
定期報告の実体は、中長期計画で掲げた目標に対して、今年度どこまで進んだかを示す一枚です。KPIの数字を並べるだけでなく、計画値・実績・差分・要因の四点セットで見せると、行政にも社内にも説明が通ります。中堅メーカーを想定した記入イメージを出しておきます。
| KPI | 計画値 | 実績 | 差分と要因の書き方 |
|---|---|---|---|
| 積載率 | 45.0% | 41.9%(推計) | −3.1pt。小口出荷の増加が要因。次年度は出荷ロットの見直しに着手 |
| 平均荷待ち時間 | 60分 | 84分 | 目標未達。8〜10時に着車が集中。バース予約制の試験導入を計画 |
| パレット化率 | 75% | 68% | −7pt。一部得意先向けのバラ出荷が残存。標準化を協議中 |
| 輸送CO2(トンキロ法) | 前年度比 −3% | 1,284 t-CO2e/月 | 積載率改善と連動。算定方式はトンキロ法で統一 |
差分がマイナスでも問題にはなりません。むしろ未達の要因と次の一手が具体的に書けているほうが、計画としての実効性を示せます。様式は行政が示すフォーマットに沿って作りますが、中身はこの対比表がそのまま素になります。日頃から計画値と実績を同じ画面で並べておけば、10月に慌てて要因を思い出す作業がなくなります。
省エネ法・Scope3と二重管理にしないための整理
物流効率化法の報告を作るとき、多くの荷主が「省エネ法の特定荷主報告」と「Scope3の算定」を別々のExcelで回していて、CO2の元データを三度計算しています。これらは源泉が同じ出荷実績と配車情報なので、一本化できます。それぞれの位置づけを整理しておきます。
| 制度 | 何を報告するか | 物流効率化法との関係 |
|---|---|---|
| 物流効率化法 定期報告 | 積載率・荷待ち・荷役・CO2・物流コスト等の効率化KPIと計画進捗 | 本体。他制度の数字を包含する立て付けにできる |
| 省エネ法 特定荷主報告 | 輸送に伴うエネルギー使用量・原単位(トンキロ法/燃費法) | CO2の算定元が共通。トンキロ法で揃えれば計算を使い回せる |
| Scope3 カテゴリ4/9 | 上流・下流の輸送に伴う温室効果ガス排出量 | 同じトンキロベースの排出量から按分。得意先のサプライヤー評価にも使う |
ポイントは、CO2の算定方式をトンキロ法に統一し、出荷ごとの重量×距離×車格から一度計算して、三つの報告に振り分けることです。燃費法は運送会社の燃料使用量が要るため専属便以外では現実的でなく、荷主にとってはトンキロ法が現実解になります。一度この源泉を整えておくと、大手取引先からScope3カテゴリ4/9やCDP回答を求められたときにも、同じ数字で即答できるようになります。
報告作成にかかる工数を試算してみる
ここまでの整理が効いてくるのは工数です。5拠点からデータを集め、名寄せし、算定し、様式に転記する。この一連を手作業でやると初年度は延べ3人月ほどかかります。データの源泉を一本化し、計画値と実績を同じ場所に持っておくと、報告作成は「内容の確認と提出」に縮みます。中堅メーカーを想定した試算例で見てみます。前提は、企画系人件費を会社の総コスト(社保・賞与・間接費込み)で1人月120万円(6万円/人日)とします。
| 業務 | 手作業の現状 | 整備後 | 試算(初年度) |
|---|---|---|---|
| 法定報告の作成(物効法 中長期計画・定期報告+省エネ法+Scope3) | 初年度 延べ3人月(5拠点からの収集・名寄せ・算定・様式転記) | 0.5人月(内容の確認と提出) | 3人月→0.5人月=2.5人月分。1人月120万円換算で約300万円の削減余地 |
| 月次KPIレポートと拠点照会 | 本社集計3人日+5拠点×0.5人日=月5.5人日 | 月0.5人日 | 年60人日=3人月。約360万円の削減余地 |
継続年度は法定報告が2人月→0.5人月に落ち着き、報告と月次を合わせて年約540万円分の工数の余地が生まれます。ここで気をつけたいのは、この数字を「人員を減らせる」と読み替えないことです。浮くのは時間であって、それを積載率改善の施策づくりや、運送会社との値上げ交渉の準備に振り向けられる、というのが正しい受け止め方です。2024年問題下で交渉材料が要る局面では、荷待ちの実データを持っていること自体が最大の武器になります。
荷待ち時間の短縮も、金額の話にする前に「返せる時間」で捉えるのが実務的です。仮に84分を60分へ近づけられれば、1日110台規模なら年1万時間を超えるドライバーの拘束を返せる計算になります。これは待機時間料の請求分に直結すると同時に、運賃改定交渉での説得材料になり、荷主勧告制度やトラックGメンへの対応というレピュテーション面のリスクを下げることにもつながります。削減額を約束する話ではなく、着手すべきレーン・時間帯・キャリアを特定し、施策後の効果を数字で検証していく話です。
よくある質問(FAQ)
特定事業者に指定されたか自社で判断できますか
年間の貨物取扱量が基準(荷主でおおむね9万トン)を超えるかどうかが目安です。該当する場合は行政から指定の通知が届きます。判断に迷う規模なら、まず自社の年間出荷トン数を集計し、複数拠点や複数事業部にまたがる場合は合算で見てください。指定の有無にかかわらず、積載率や荷待ちの把握は改正法で荷主の努力義務になっているため、データ整備に早く着手して損はありません。
荷待ち時間のデータが全く無いのですが、初回報告に間に合いますか
間に合います。初回の定期報告は、自社データだけで作れるCO2・物流コスト比率・パレット化率・積載率(推計)で骨格が成立します。荷待ち・荷役は「現在整備中で次年度から月次把握」と記載すれば問題ありません。無理に実測を装うより、段階的に整えていく計画を示すほうが、報告の実効性として評価されます。整備の順番はPhase 1から3の表を参照してください。
CLOは物流部門長がそのまま兼任してよいですか
CLOは経営に関与する立場からの選任が想定されており、役員クラスが担うのが基本の考え方です。物流部門長が実務を統括しつつ、選任自体は担当役員が受けて、部門長が実行責任者として動く体制もよく取られます。大事なのは肩書きよりも、拠点横断で数字を集める号令と、経営会議に物流KPIを載せる権限がその人にあることです。
省エネ法とScope3の算定を別々にやっていますが、まとめられますか
まとめられます。三つはいずれも出荷実績と配車情報を源泉にしています。CO2の算定方式をトンキロ法に統一し、出荷ごとの重量×距離×車格から一度計算しておけば、物効法の定期報告・省エネ法の特定荷主報告・Scope3カテゴリ4/9へ按分できます。二重三重の再計算をやめるだけで、CO2まわりの工数はかなり軽くなります。
散らばった数字を、報告と経営の言葉にする
初回の期限が迫るなかで一番つらいのは、報告そのものより「数字が5拠点に散っていて、集めるだけで力尽きる」ことだと思います。逆に言えば、出荷実績・物流費仕訳・配車情報という源泉を一度整えて、計画値と実績を同じ場所で持てれば、毎年10月の火事はなくなります。LogiLens STK は、荷主の物流KPIを基幹システムやWMSのデータから可視化し、中長期計画の進捗と定期報告の作成までを一枚でつなぐために作ったサービスです。まずは自社データだけで出せるPhase 1の姿から確認したい、という段階でも、初回の相談で「どの数字が今あって、どこから取りにいくか」の棚卸しからご一緒できます。