物流KPIを一枚のダッシュボードにまとめたい。積載率、荷待ち時間、CO2、物流コスト。役員会でも改正物流効率化法の定期報告でも同じ数字を使いたい。そこまでは決まっている。しかし、そこで手が止まります。「そもそも、その画面を出すのに何のデータが要るのか」が分からないからです。情シスに聞けば「どこからデータを引くか決めてくれれば作ります」と返ってきます。現場に聞けば「荷待ちなんて測っていません」と言われます。そうして企画書は「まずデータ整備から」の一行で止まったまま、次の四半期に持ち越されてしまいます。

商談やベンダー説明でも、同じ壁にぶつかります。「データが揃っていないので、まだ早いですね」で終わってしまいます。しかし実際には、荷主が自社で持っているデータだけで、KPIのおよそ半分は今日から作れます。残り半分(荷待ち・荷役・実際の積載重量)は運送会社や現場に由来し、その取得の仕組みづくりまで含めて設計するのが本来の進め方です。KPIごとに必要なデータと入手のしやすさを整理し、最小構成のテーブル設計と段階導入の道筋まで、順に具体化していきます。全部が揃うのを待つ必要はありません。LogiLens STKは、この「揃っている半分から始める」設計を前提にしています。

物流KPIは「自社で作れる半分」と「現場由来の半分」に分かれる

物流KPIを構成するデータは、大きく2つの層に分けて考えると整理しやすくなります。ひとつは荷主が自社の基幹システム・WMS・会計システムにすでに持っているデータです。もうひとつは、車両が拠点に着いてから出るまでの時間や、便ごとの実際の積載重量のように、運送会社や現場の記録がないと埋まらないデータです。

前者だけで、売上高物流コスト比率・パレット化率・輸送CO2(トンキロ法)・積載率の推計値までは組めます。これは改正法の中長期計画や定期報告で求められる数字の土台とほぼ重なります。後者の荷待ち・荷役時間は、改正法が荷主の努力義務として把握を求めた領域で、運送会社への提供依頼の根拠はできました。「持っている半分で法定報告の骨格を先に立て、現場由来の半分は根拠を持って一緒に整えていく」という順序で進められます。

KPI別に見る、必要データと入手のしやすさ

まず全体像を早見表で押さえておきましょう。KPIごとに「何のデータが要るか」「それを誰が持っているか」「どのくらい入手しやすいか」を並べました。入手しやすさは◎(自社に確実にある)・○(推計や依頼で作れる)・△(現場や運送会社の仕組みがないと難しい)の3段階で示しています。

KPI必要データ保有者入手しやすさ
売上高物流コスト比率支払運賃・保管料の仕訳、売上高荷主(会計システム)◎ 確実にある。勘定科目の切り分けだけが論点
パレット化率出荷明細の荷姿(パレット/バラ)荷主(WMS・出荷指示)◎ WMSがあればある。記録していなければ運用改善から
輸送CO2(トンキロ法)出荷ごとの重量×輸送距離×車格荷主(出荷実績+配車情報)◎〜○ 省エネ法の特定荷主は算定基盤を持つことが多い。月次・拠点別に組み替えるのが実作業
輸送CO2(燃費法)車両ごとの燃料使用量運送会社△ 荷主には無い。専属便・自社便以外は提供依頼が必要
積載率便ごとの積載重量÷最大積載量荷主(TMS・配車表)+運送会社(車格)○ 配車表があれば推計可能。正確な実積載は運送会社側。初期は「車格×台数からの推計値」と明示するのが誠実
平均荷待ち時間車両の到着・荷役開始時刻現場(バース予約)/運送会社(デジタコ)△ 荷主が持っていないことが最も多い。改正法の努力義務が依頼の根拠になる
平均荷役時間荷役開始・終了時刻現場(バース予約システム)△ 同上。ヒートマップはバース予約導入後の姿

この表を眺めると、◎と○のKPIはすべて荷主の手元で完結するか、推計で立ち上げられることが分かります。△が付くのは荷待ち・荷役・燃費法CO2の3つだけです。ダッシュボードが「作れない」のではなく、「先に作れる部分と、あとから足す部分がある」だけなのです。

まず用意するのは3つのテーブルだけ

最小構成は「出荷実績・配車実績・物流費仕訳」の3テーブルに、拠点と運送会社のマスタを添えた形です。荷待ち系のバース入退場ログは、この3つが動いてから足せば十分です。それぞれ主要な列と用途を、具体的に見ていきます。

shipments(出荷実績):出所は基幹システム・WMS

出荷1明細を1行として持つ、ダッシュボードの土台になるテーブルです。荷姿の列がパレット化率を、重量と宛先がトンキロ法CO2を生みます。

用途
shipment_date2026-07-15期間集計
location_idkanto-1拠点別集計
destination_pref群馬県輸送距離の算定
weight_kg / volume_m3480 / 1.2トンキロ・積載率
package_typeパレット(T11) / バラパレット化率
carrier_idC001キャリア別分析

transport_orders(配車・運行実績):出所はTMS・配車表・運送会社の月次報告

便(トリップ)1本を1行にします。車格から最大積載量が決まり、積載重量を分子に置けば積載率になります。距離はトンキロ法CO2にも使います。配車表がExcelなら、それをそのまま取り込むところから始めて構いません。

用途
trip_date / trip_id2026-07-15 / T-1024便単位の集計
vehicle_class10t最大積載量→積載率・CO2車格係数
loaded_weight_kg4,190積載率の分子
distance_km112トンキロ
carrier_id / freight_costC001 / ¥48,000キャリア別・コスト按分

freight_costs(物流費仕訳):出所は会計システム

年月・勘定科目(支払運賃/保管料/荷役費)・金額・拠点を持てば十分です。売上高は基幹システムから月次1行を足せば足ります。この2つが揃えば、初日から売上高物流コスト比率が出せます。会計データはほぼ確実に社内にあるため、ここが導入の最短ルートになります。

berth_logs(バース入退場ログ):あとから足す△のテーブル

荷待ち・荷役の日次把握とバース稼働ヒートマップは、このテーブルが揃ってからの姿です。到着時刻・荷役開始時刻・終了時刻を持てば、荷待ち=開始−到着、荷役=終了−開始で算出できます。バース予約システムがなければ、守衛所の紙の入退場記録をCSV化するところから始めれば大丈夫です。マスタは拠点(locations)と運送会社(carriers)の2種を、初回ヒアリングで整えます。

全部揃わなくても始められる:Phase1・2・3の道筋

導入は一気に完成形を目指さず、使えるデータの範囲で段階的に広げます。次の表は、各フェーズで使うデータと、そこで出せるKPIの対応です。Phase1は自社データだけで、法定報告に必要な土台(コスト・パレット化・CO2)がそのまま揃います。

フェーズ使うデータ出せるKPI
Phase 1(自社データのみ・導入初月)shipments + freight_costs + マスタ物流コスト比率・パレット化率・CO2(トンキロ法)・積載率(推計値)
Phase 2(運送会社の協力)+ transport_orders、運送会社の月次報告CSV積載率(実績)・キャリア別分析・荷待ち(月次サマリ)
Phase 3(現場の仕組み化)+ berth_logs(バース予約 or デジタコ連携)荷待ち・荷役の日次把握、バース稼働ヒートマップ

フル機能の6KPIダッシュボードは、Phase3に到達したときの姿です。だからといって、最初からそこを狙う必要はありません。Phase1で法定報告の骨格を立て、荷待ち系は改正法の努力義務を根拠に運送会社と一緒に整えていきます。データ連携画面でTMSだけ「未接続」のまま運用が回るのは、この段階性の表れです。全部が繋がっていなくても、価値は初月から出ます。

手元のCSVから、最初のKPIを1つ組み立ててみる

抽象論だけでは動けないので、Phase1の範囲で実際に手を動かす例を通してみます。用意するのは会計システムからの freight_costs と、基幹システムの売上、そしてWMSの出荷明細(shipments)の3つのCSVだけです。

売上高物流コスト比率から始めます。freight_costs を年月で集計し、支払運賃・保管料・荷役費を合算します。ある月の物流費が6,500万円、同じ月の売上が12.5億円だったとすると、比率は 6,500万 ÷ 12.5億 = 5.2%。これを12か月並べれば、経営会議にも定期報告にもそのまま使える推移グラフになります。必要なのは「勘定科目のどれを物流費に含めるか」を最初に一度決めることだけです。

次にパレット化率です。shipments を package_type で振り分け、パレット行の重量合計を全体の重量合計で割ります。たとえばその月の出荷が12,000行、うちパレット出荷が重量ベースで68%なら、パレット化率は68%です。バラ出荷が多い拠点はどこかも、location_id で切ればすぐに見えます。ここまでで、運送会社に一度も依頼をかけず、自社の3ファイルだけで2つのKPIが立ち上がりました。

この段階で得られる効果は、まず法定報告の作成工数に返ってきます。5拠点からデータを集めて名寄せし、様式に転記する作業を毎年繰り返している場合、その工数は初年度で延べ3人月に達することも珍しくありません。企画系人件費を6万円/人日(月給40万円を社保・賞与・間接費込みの総コスト約3倍で換算)とすると、3人月はおよそ300万円分の時間です。集約と算定を仕組みに載せれば、この多くを確認・提出だけに圧縮できる余地があります。浮いた時間は人減らしではなく、改善施策や交渉準備に振り向ける前提で語るのが実態に合います。

よくある質問(FAQ)

荷待ち時間のデータが無いと、ダッシュボードは作れませんか

いいえ。荷待ち・荷役時間は現場由来の△データで、多くの荷主は最初は持っていません。しかし売上高物流コスト比率・パレット化率・輸送CO2(トンキロ法)・積載率の推計値は、自社の出荷実績・配車表・会計データだけで作れます。まずこの半分で法定報告の土台を立て、荷待ち系は改正物流効率化法の努力義務を根拠に、運送会社と一緒に整備していくのが現実的な順序です。

積載率は運送会社に実データを出してもらわないと出せませんか

正確な実積載重量は運送会社側にしかありません。ただ初期は、配車表の車格(例:10t車)と便数から「車格×台数の推計値」として算出できます。大切なのは、その数字を実測ではなく推計だと画面上で明示することです。運送会社の協力(Phase2)で実績値に置き換わり、精度が上がっていきます。推計から始めても、拠点間の傾向や改善の当たりを付けるには十分に役立ちます。

データがExcelや紙のままでも始められますか

始められます。配車表がExcel、入退場記録が守衛所の紙、というのはよくある出発点です。最小構成の3テーブルはCSV取込を前提にしており、TMSやWMSと直接つながっていなくても構いません。まず手元のファイルを取り込んで数字を出し、そこで見えた効果を根拠に、システム連携や現場の記録の仕組み化へ順番に進めるほうが、社内の合意も取りやすくなります。

省エネ法やScope3の算定にも同じデータが使えますか

使えます。輸送CO2の算定に使う「出荷ごとの重量×距離×車格」は、改正物流効率化法の定期報告、省エネ法(特定荷主)、Scope3のカテゴリ4・9で共通の土台になります。省エネ法の特定荷主として以前から報告している企業は、その算定基盤をすでに持っていることが多く、月次・拠点別に組み替えるのが実作業の中心になります。1つのデータ設計で複数の制度対応を同じ画面から出せるのが、まとめて持つ利点です。

「ダッシュボードを作りたいが、何のデータが要るのか」で止まっているなら、まず自社にある3ファイルで出せるKPIを見極めるところから始められます。手元のデータでどこまで作れて、何を運送会社や現場と整えていくべきか。その線引きだけでも、LogiLens STKの設計思想を下敷きに一度整理してみませんか。初回相談(30分・無料)で、お手元のデータ状況に合わせた最短の始め方をご一緒に描けます。

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