役員会の帰りに社長から「今度うちもCLOを置くことになった。物流に一番詳しいのは君だから頼む」と言われた。辞令には「物流統括管理者」とある。ところが、その日から何をすればいいのかが分からない。中長期計画を出すらしいが、いつまでに、何を書くのか。定期報告の期限は来ているのか。5拠点それぞれに配車のExcelはあるが、様式も担当もバラバラで、全社の積載率が今いくつなのかすら即答できない。まわりに前任者はおらず、コンサルの資料はどれも横文字のフレームばかりで、明日から自分が何を動かせばいいのかは書いていない。

最初につまずくのは、能力ではなく順番です。CLOの仕事は「物流を良くする」という大きな話に見えて、最初の90日でやることはかなり具体的に絞れます。今どこにいるのかを数字で把握し、来年に向けた計画の骨子を決め、それを回す体制を組む。この三段を30日ずつで踏むと、初年度の混乱はぐっと減ります。ここでは、任命された人が明日から手をつけられる順に、集める数字・決めること・作る成果物まで落として整理します。まずはCLOという役割の輪郭からです。

CLOはそもそも何を統括する役割なのか

CLO(物流統括管理者)は、改正物流効率化法で特定事業者に選任が義務づけられた責任者です。現場の配車担当を束ねる役ではなく、経営に関与する立場から物流の効率化を全社で統括するのが本来の位置づけで、役員クラスが想定されます。やることを分解すると、大きく三つに集約されます。

統括する対象中身CLOが握るべき勘所
中長期計画の策定積載率や荷待ち時間などの改善目標と、そこへ到達する取り組みを計画として示す目標値を現実的に置くこと。良い数字を並べるより、達成手段まで書ける水準にする
定期報告の統括前年度の実績と計画に対する進捗を、毎年度まとめて報告する拠点をまたいで同じ様式でデータを集められる仕組みを持つこと
拠点横断の物流最適化個々の拠点最適に閉じず、全社視点で積載・荷待ち・コストの改善を進める経営会議に物流KPIを載せる権限と、部門横断で号令をかける立場

この三つに共通するのは、いずれも「複数拠点と経理・購買・現場をまたいで数字を集める」ことが前提になる点です。だからCLOの初動で最も効くのは、施策を打つことより先に、全社の物流データを一つの言葉で見られる状態を作ることです。ここが無いまま計画づくりに入ると、毎年の報告が拠点への催促メールで終わってしまいます。次に、その初動を90日でどう組むかを見ていきます。

最初の90日を「把握・計画・体制」で区切る

90日を漠然と過ごすと、あっという間に初回報告の期限が近づきます。30日ごとに主眼を切り替えると、各期の終わりに手元へ残る成果物がはっきりします。最初の30日は現在地の把握、次の30日は計画の骨子づくり、最後の30日は回す体制の整備です。全体像を一枚で持っておきましょう。

期間主眼やることこの期の成果物
1〜30日把握(現在地を数字で知る)全社の積載率・荷待ち・物流コスト比率・CO2の現在値を集める。どの数字が自社にあり、どこから取りにいくかを棚卸し。5拠点の様式のバラつきを一覧化全社KPIの現在地サマリ1枚と、データ入手先の棚卸し表
31〜60日計画(骨子を決める)改善目標を現実的な値で仮置き。積載率・荷待ちのどこから着手するかを1〜2点に絞る。省エネ法・Scope3のCO2算定を一本化する方針を決める中長期計画の骨子ドラフト(目標値・重点テーマ・着手順)
61〜90日体制(回す仕組みを組む)拠点横断でデータを集める担当と様式を固定。月次で計画値と実績を並べる場を設定。運送会社への荷待ちデータ提供依頼を開始月次モニタリングの運用ルールと、定期報告の作成段取り

この順番には理由があります。把握を飛ばして計画に入ると、目標値が現場感覚とずれて絵に描いた餅になります。体制を後回しにすると、計画は立ったのに毎月の数字が集まらず、翌年また徹夜で報告を書くことになります。特に最初の30日の「把握」が全体の土台なので、ここを具体的に見ておきます。

最初の30日で集める数字と、その入手のリアリティ

把握のフェーズで最初に手を出すべきは、KPIの改善ではなく現在値の確定です。ここでよくある誤解が「うちにはデータが無い」というもので、実際には半分はすでに社内にあります。物流コスト比率・パレット化率・CO2・積載率の推計は、会計システムとWMS、つまり自社のデータだけで組み立てられます。取りにいく必要があるのは、荷待ち・荷役・実積載など運送会社や荷役現場の側にある数字です。中堅メーカーを想定した現在地の例で、この線引きを見てみます。

まず確定する数字現在値の例どこから取るか入手のリアリティ
売上高物流コスト比率5.2%会計システム(支払運賃・保管料の仕訳+売上高)◎ 自社にある。勘定科目の切り分けだけが論点
パレット化率68%WMS・出荷指示の荷姿◎ 自社にある。記録が無ければ運用改善から
輸送CO2(トンキロ法)1,284 t-CO2e/月出荷実績+配車情報◎〜○ 省エネ法の特定荷主なら算定基盤を持つことが多い
積載率41.9%(推計)配車表+運送会社の車格○ 配車表があれば推計可能。実積載は運送会社側にしかない
平均荷待ち時間84分(目標60分)現場のバース記録 or 運送会社のデジタコ△ 荷主が持たないことが最も多い。運送会社への提供依頼から

大事なのは、全部が揃うのを待たないことです。荷待ち系が未整備でも、CO2・コスト・パレット化率・積載率(推計)で現在地の骨格は初月に描けます。積載率は「車格×台数からの推計値」と明示して出せば十分で、初回から実測を装う必要はありません。荷待ちは「現在整備中、次年度から月次で把握」と正直に持ち、改正法が把握を努力義務にしたことを根拠に運送会社との整備交渉に乗せていきます。この現在地サマリが、次の30日で立てる計画値の出発点になります。

もう一つ、把握の段階でCLOが自分の言葉で押さえておきたいのが、法定報告そのものにかかる工数です。数字が5拠点に散っていると、集めて名寄せして算定し様式に転記するだけで初年度は延べ3人月ほどかかります。データの源泉を一本化し、計画値と実績を同じ場所に持つと、報告作成は内容の確認と提出に縮みます。企画系人件費を会社の総コスト(社保・賞与・間接費込み)で1人月120万円として試算した例です。

業務手作業の現状整備後試算
法定報告の作成(物効法 中長期計画・定期報告+省エネ法+Scope3)初年度 延べ3人月(5拠点からの収集・名寄せ・算定・様式転記)0.5人月(内容の確認と提出)初年度 2.5人月分=約300万円の削減余地。継続年度は2人月→0.5人月で約180万円
月次KPIレポートと拠点照会本社集計3人日+5拠点×0.5人日=月5.5人日月0.5人日年60人日=3人月分=約360万円の削減余地

この試算はコストを自動で削る話ではなく、CLOと担当者の時間がどれだけ報告作業に食われているかを見える化するためのものです。浮いた時間は人員削減ではなく、積載率改善の施策づくりや運送会社との交渉準備に振り向けられる、と受け止めるのが正しい読み方です。90日の最後に体制を組むのは、この工数が毎年繰り返し発生しないようにするためでもあります。

61日目からの体制づくりで最初に決める一つのこと

体制というと権限表や役割分担のマトリクスを思い浮かべがちですが、中堅企業でそれを精緻に作っても動きません。最初に決めるべきは一点だけです。「全社の物流KPIを、誰が・どの様式で・いつ集めて、どこで経営に見せるか」を固定することです。ここが決まると、拠点への催促がルーティンになり、月次の数字が自然に集まる流れができます。

具体的には、拠点横断のデータ収集担当を1人決め、5拠点で使う入力様式を1種類に統一します。そのうえで、月に一度、計画値と実績を同じ画面に並べて経営会議に載せる場を設定します。差分がマイナスでも問題にはならず、むしろ未達の要因と次の一手が具体的に書けているほうが、計画としての実効性を示せます。この月次の対比を積み上げておけば、定期報告は年に一度それをまとめ直すだけになり、10月に慌てて要因を思い出す作業が消えます。運送会社への荷待ちデータの提供依頼も、この体制ができてから始めると、単発のお願いではなく継続的な取り組みとして根づきます。

よくある質問(FAQ)

CLOは物流部門長がそのまま兼任してよいですか

CLOは経営に関与する立場からの選任が想定されており、役員クラスが担うのが基本の考え方です。物流部門長が実務を統括しつつ、選任自体は担当役員が受け、部門長が実行責任者として動く体制もよく取られます。肩書きの形より大事なのは、拠点横断で数字を集める号令と、経営会議に物流KPIを載せる権限が実質的にその人にあることです。

90日で中長期計画まで完成させないといけませんか

完成品まで作り切る必要はありません。最初の90日で目指すのは、現在地の把握・計画の骨子・回す体制という土台です。目標値や重点テーマは骨子として仮置きし、月次で実績を見ながら精度を上げていくのが現実的です。むしろ90日で骨組みと運用を先に固めておくと、その後の計画の作り込みも報告も、同じデータの上で軽く回せるようになります。

荷待ち時間のデータが全く無いのですが、着任早々どうすればよいですか

最初の30日では、まず自社データだけで作れるCO2・物流コスト比率・パレット化率・積載率(推計)で現在地の骨格を固めてください。荷待ちは持っていないのが普通なので、無理に測ろうとせず「現在整備中、次年度から月次で把握」と位置づけます。改正法が荷待ちの把握を荷主の努力義務にしたため、運送会社へデータ提供を依頼する根拠はできています。体制ができた61日目以降に、その依頼を継続的な取り組みとして始めるのが順当です。

まず着手する改善テーマは積載率と荷待ちのどちらがよいですか

会社の状況によりますが、最初の90日では改善テーマを1〜2点に絞ることそのものが大切です。データが自社で揃う積載率は現在地を早く出せるため、目標設定と着手判断がしやすい領域です。荷待ちは運送会社との整備が前提になる分、時間はかかりますが、2024年問題下の交渉材料としての価値が大きいテーマです。どちらも、着手すべきレーン・時間帯・キャリアを数字で特定してから動くと、効果の検証まで一貫して回せます。

任命初日から、数字で現在地が見える状態をつくる

CLOに任命された最初のつらさは、報告や計画そのものより「全社の物流が今どうなっているのかを、自分の言葉で言えない」ことにあると思います。逆に言えば、把握・計画・体制の順で90日を踏み、出荷実績・物流費仕訳・配車情報を一度整えて計画値と実績を同じ場所で持てれば、着任初日の霧はかなり晴れます。LogiLens STK は、荷主の物流KPIを基幹システムやWMSのデータから可視化し、中長期計画の進捗と定期報告の作成までを一枚でつなぐために作ったサービスです。最初の30日で「どの数字が今あって、どこから取りにいくか」を棚卸しする段階から、初回のご相談でご一緒できます。

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