データ活用の推進を任されたものの、専任は実質自分ひとり。各部門に「このデータを出してほしい」と頼んでも通常業務の後回しにされ、催促ばかりが仕事になる。経営からは進捗を問われ、半年たつと「結局、何が変わったのか」と聞かれる。多くの推進担当が、この板挟みと孤立から始まります。
ここで頑張る方向を間違えると消耗します。データ活用は他部門のデータと協力なしには進まず、権限のない推進担当の依頼は現場の忙しさに簡単に埋もれます。だから「自分がもっと頑張る」より先に、「動く人を増やす」ことに力を注ぎます。この記事では、最初の味方の見つけ方と口説き方、非エンジニアでも回せる実装の進め方、毎回もめる論点の潰し方、そして半年後に経営へ見せる成果のまとめ方まで、順番に具体化します。
最初の味方は「いちばん数字が痛んでいる役員」
スポンサー(経営の後ろ盾)は、つい社長や情報システム担当役員に頼みがちです。しかし本気で動いてくれるのは、いまのデータの問題で自分の数字がいちばん痛んでいる役員です。痛みのある人ほど、自分ごととして力を貸してくれます。
では、どう見分けるか。心当たりがなければ、次の手順で1人に絞ります。
- 直近2〜3回の経営会議の議事録か、役員向け報告資料を見返す。
- 「数字が読めない」「着地が見えない」「報告が遅い」という不満が出ている役員を探す。
- それでも分からなければ、経営会議に出る上司に「最近どの数字で経営がもめていますか」と一問だけ聞く。
典型的には、受注予測が当たらず月末の着地が読めない営業管掌役員、月次決算の確定が遅く部門別採算がすぐ見えないCFO、在庫や稼働率のデータが揃わず最適化の判断ができないCOOあたりが候補になります。
狙う役員が決まったら、切り出し方が肝心です。自分の頼みごとではなく、相手の痛みの解決として持っていきます。伝える中身は次の3点を、この順番で。
- その役員が困っている数字(例:着地が読めない受注予測)を、最初の改善対象にすること。
- 3か月で、目に見える形にすると約束すること。
- そのために必要なのは「月30分の同席」だけだと、依頼を最小にすること。
相手の痛みから入り、依頼は最後に小さく置く。これだけで通り方が変わります。そのうえで、お願いすることは3つに絞ります。多くを頼むと、忙しさを理由に断られます。
- 月1回の推進会議に同席してもらう(30分でよい)。意思決定の場に経営がいると、現場の優先順位が変わります。
- 部門長が集まる会議で「全社方針だ」と一言入れてもらう。推進担当が百回言うより効きます。
- 予算の一次承認ラインになってもらう。都度の稟議で止まらなくなります。
現場の味方は「依頼がいちばん多い部署」から
全部署に均等に声をかけても、薄く広がって誰も動きません。味方は1部署から作ります。探し方は単純で、直近3か月で「この数字を出して」「この集計をお願い」と最も頼んできた部署を思い出してください。依頼が多い部署は、それだけデータで困っていて、協力する動機があります。
その部署と、最初の小さな成果を1つだけ作ります。対象に選ぶ業務は、次の3つをすべて満たすものにします。
- 毎週か毎月、必ず発生する。
- いまは手作業で、1回あたり1時間以上かかっている。
- その結果を定期的に見る人がいる(=役に立つ実感が出る)。
たとえば、営業部が毎週かけている案件進捗の手集計を、自動更新の表に置き換える、といったものです。効果は自社の人数で試算できます。1人が週2.5時間、2名で担当しているなら、2.5時間 × 2名 × 月4週 = 月20時間が浮く計算です。あわせて、数字の鮮度(たとえば「3日遅れ」が「当日」に)も上がります。
成果は、必ず現場の人に、現場の言葉で社内へ紹介してもらいます。同じ成果でも、隣の部署は「推進部門の宣伝」より「同僚の実体験」を信じます。最初の味方が、次の味方を連れてきます。
「作るのは自分ではない」と割り切る
非エンジニアの推進担当がここで固まります。「自動化」「ダッシュボード化」と言われても、自分では作れないからです。しかし、作る必要はありません。推進担当の仕事は、手を動かすことではなく、対象業務を1つ選び、現場の手順を言葉にし、出来上がりを現場に使わせることです。
道具もゼロから用意しません。多くの会社は、すでにExcelやスプレッドシート、あるいはBIツール(Looker Studio、Power BIなど)を持っています。まず現状の手集計を「誰が・どのファイルを・何分かけて・どう作っているか」の粒度で書き出します。この手順書が、次に出てくる外部の手に渡す設計図になります。
手を動かす人は、採用より先に「外部の手」で
実装を誰がやるか。ここでいきなり正社員のデータエンジニアを採用しようとすると、つまずきます。経験者は年収600〜900万円程度、採用に3〜6か月かかることも珍しくありません。しかも一人目は、指示や育成ができる人が社内にいないまま放り込まれ、立ち上げがかえって遅れます。
現実的なのは、最初の3か月だけ外部の専門家に部分稼働(週2〜3日)で入ってもらい、再現できる「型」を作ることです。探し先は、フリーランスのエンジニアを扱うエージェント、受託会社とのスポット契約、信頼できる知人の紹介などです。声をかけるときは、次の5項目を1枚にまとめて渡すと、見積もりも作業もぶれません。
- 対象業務(例:営業部の案件進捗集計)。
- 現状の手順(先ほど書き出した手順書)。
- いま使っているツール(スプレッドシート、BIツール等)。
- いつまでに(例:6週間で初版)。
- 成功の判定(例:現場が毎週見にくる状態になること)。
費用は「日単価 × 稼働日数」で見ると比較しやすくなります。経験者の日単価はおおむね5〜10万円で、週2日なら月40〜80万円程度が一つの目安です。設計から実装まで継続して伴走してもらう場合は、月数百万円規模になります。立ち上げに厚く、運用に乗るほど薄くしていくのが基本です。
最初の90日は、おおむね次のように進みます。
| 期間 | やること |
|---|---|
| 第1〜2週 | スポンサーと現場の味方を固め、最初に取り組む業務を1つに決める |
| 第3〜6週 | その業務のデータを集め、最初の自動化(または表)を作る |
| 第7〜10週 | 現場に毎週使ってもらい、つまずく所を直して定着させる |
| 第11〜13週 | 成果を数字で測り、推進会議で次に取り組む業務を決める |
運用を社内へ引き継ぐとき、注意が1つあります。せっかくの専門人材を「何でも屋」にすると、雑用に追われて静かに辞めていきます。役割と裁量をはっきりさせることが、定着の前提です。理由は優秀なデータ人材が辞めていく会社の特徴で詳しく触れています。
毎回もめる「定義」を3つだけ、決める人を決める
推進が止まる地味な原因が、言葉の定義の食い違いです。同じ「アクティブユーザー」でも、部署によってログイン基準だったり課金基準だったりして、数字が合いません。会議が「その数字の前提は?」で止まり、何度も蒸し返されます。
全社の用語をすべて統一する必要はありません。自社で毎回もめる定義を3つだけ挙げ、それぞれ決める人を1人立てます。よくもめるのは、次のような定義です。
| もめやすい定義 | 食い違いの例 |
|---|---|
| アクティブユーザー | ログインした人か、課金した人か |
| 売上の計上タイミング | 受注した時か、検収・納品した時か |
| 解約 | 解約を申し出た時か、契約が満了した時か |
| 顧客の単位 | 契約単位か、事業所・グループ単位か |
ここで現実的な壁があります。権限のない推進担当は、「あなたが決定者です」と勝手に指名できません。そこで、先ほど作った月次推進会議を使います。スポンサー同席の場で「この用語の最終決定者は、どの部署の誰か」を5分で決め、議事録に残す。これで決定者に正当性がつきます。
記録に専用ツールは要りません。共有ドライブに1枚のスプレッドシートを置き、「用語/定義/決定者/決めた日」の4列で十分です。迷ったらここを見れば済む、という状態を作ります。
月次会議を「報告会」から「決める場」へ
推進会議が、各部門の進捗を読み上げて終わる報告会になっていると、何も前に進みません。会議は「決める場」に組み替えます。30分なら、次の配分が目安です。
| 時間 | 使い方 |
|---|---|
| 最初の10分 | 前回からの成果を、数字で1つだけ共有する |
| 次の15分 | いま詰まっている論点を出し、その場で2〜3件を決める |
| 最後の5分 | 次のアクションと、担当・期限を確認する |
現実には、その場で決まらない論点や、役員が欠席する回もあります。決まらない論点は「誰が・いつまでに決めるか」だけを決めて次に送ります。役員が欠席した回は、決定事項を3行にまとめてメールで共有し、追認をもらえば前に進みます。スポンサーには、最後まで居てもらう必要はありません。決める論点の時間だけ判断を仰げば十分です。
やってはいけない3つ
- 自分がボトルネックになる:すべての依頼を自分経由にすると、あなたが休んだ瞬間に全部止まります。窓口は作っても、実務は味方と外部の手に渡します。
- 全部署で一斉に始める:薄く広がって、どこも成果が出ません。1部署で成功を作り、現場の口コミで横に広げます。
- 体制図づくりに時間をかける:きれいな組織図を描いても、3か月後に「図だけ立派で動いた業務はゼロ」になりがちです。図は1つ業務を動かしてから、後追いで描きます。
半年後、経営に何を見せるか
冒頭の「結局、何が変わったのか」という問いには、半年後に1枚で答えられるよう準備しておきます。盛る必要はありません。次の3つを並べるだけで、経営は投資を続ける判断ができます。
- 自動化・改善した業務の数(例:3業務)。
- 浮いた時間の合計(各業務の試算を足す。例:月60時間)。
- 次に取り組む対象(次の3か月で何を、なぜ)。
「立派な分析基盤を作りました」ではなく、「現場の手間がこれだけ消え、数字がこれだけ速くなりました」と言えること。それが、次の予算と協力を引き出します。
まとめ
- 頑張る前に、動く人を増やします。最初の味方は、いちばん数字が痛んでいる役員です。
- 現場の味方は依頼の多い部署から見つけ、手作業の集計を1つ自動化して、現場の言葉で広めてもらいます。
- 自分では作りません。業務を選び、手順を言語化し、外部の手に渡し、現場に使わせます。
- 毎回もめる定義は3つだけ選び、決める人を月次会議で1人立てます。
- 半年後は、自動化した業務数・浮いた時間・次の対象の3つで成果を語ります。
推進全体の進め方はデータ活用・DX推進の進め方で整理しています。自社で「最初に誰を味方にし、どの業務から手をつけるか」を具体的に決めたいときは、DE-STKの初回スポット相談で、現状を踏まえて一緒に設計できます。
よくある質問(FAQ)
Q. 外部に頼むと費用はどのくらいですか?
A. 「日単価 × 稼働日数」で見積もると比較しやすくなります。フリーランスの経験者で日単価5〜10万円程度、週2日なら月40〜80万円規模が一つの目安です。設計から実装まで継続して伴走してもらう場合は月数百万円規模になります。立ち上げに厚く、運用に乗るほど薄くするのが基本です。
Q. 外部に頼むと、社内にノウハウが残らないのでは?
A. 残す前提で進めれば残ります。立ち上げ期に外部と「型」を作り、運用を社内へ引き継ぐ流れにします。手順書と定義の記録(共有スプレッドシート)を社内に残しておけば、担当が変わっても回ります。最初から採用だけで固めると、育成と立ち上げが重なり、かえって時間がかかります。
Q. 最初の相談に、何を持っていけばよいですか?
A. 3つあれば十分です。痛んでいる数字を持つ役員の見当、最初に自動化したい手作業の業務、その現状手順のメモ。これらがあれば、誰に相談しても具体的な次の一手まで話が進みます。